年金を受給している方がもし亡くなった場合、「受け取るはずだった年金はどうなるのか? 何か手続きが必要?」と、疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、年金受給者が死亡した場合の手続きや、遺族が受け取ることができる年金についてご説明いたします。
目次
年金受給者が死亡したら年金はどうなる? いつまでもらえる?
年金受給者が死亡したら行なうことは?
年金受給者が死亡した場合、遺族が受け取ることができる年金とは?
まとめ
年金受給者が死亡したら年金はどうなる? いつまでもらえる?
国民年金や厚生年金などの年金受給者が死亡した場合、亡くなった月分までその年金をもらうことができます。仮に2月15日に亡くなった場合には、2月分まで年金をもらうことが可能です。ただし、年金は後払いのため、年金受給者が死亡した場合、本人が受け取ることができない年金が発生します。
年金は、原則年6回に分けて、偶数月の15日に支払われます。なお、15日が土日または祝日の場合は、その直前の平日に支払われます。そして、各支払月に支払われるのは、原則その前月までの2か月分の年金です。
例えば4月に支払われる年金は、2月・3月の2か月分で、2月15日に亡くなった場合の2月分の年金は、本人が亡くなった後の4月15日に支払われることに。この年金のことを「未支給年金」といいますが、未支給年金は、代わりに遺族が受け取ることになるのものです。
この遺族が支払を受ける未支給年金に対して、相続税はかかりません。しかし、その遺族の固有の権利に基づいて支払いを受けるものなので、受け取った遺族の一時所得の収入金額になります。相続税は課税されない反面、所得税が課税されますのでご注意ください。
年金受給者が死亡したら行なうことは?
年金を受給されている方が亡くなると、年金を受ける権利がなくなるため、「受給権者死亡届(報告書)」を年金事務所または年金相談センターに、国民年金は死亡した日から14日以内、厚生年金と共済年金は死亡日から10日以内に提出する必要があります。ただし、例外として日本年金機構へ個人番号(マイナンバー)を登録済の方は、原則として、「年金受給権者死亡届(報告書)」を省略することが可能です。
「受給権者死亡届(報告書)」の用紙は、日本年金機構のウェブサイト「年金を受けている方が亡くなったとき」からダウンロードすることができます。
また、「受給権者死亡届(報告書)」の他、次の添付書類が必要です。
(1)亡くなった方の年金証書
(2)以下(※)の死亡の事実を明らかにできる書類
※住民票除票、戸籍抄本、市区町村長に提出した死亡診断書のコピー、死亡届の記載事項証明書の内いずれかの書類
年金受給者が死亡した場合、遺族が受け取ることができる年金とは?
年金の受給者が亡くなった場合に、遺族の方は以下の年金を受け取ることができます。
(1)厚生年金や国民年金などの遺族年金
(2)確定給付企業年金法などに基づく遺族年金
(3)寡婦年金
(4)死亡一時金
(1)厚生年金や国民年金などの遺族年金
厚生年金や国民年金などの被保険者であった方が亡くなったときは、遺族の方に対して遺族年金が支給されます。また、恩給を受けていた方が亡くなった場合、遺族の方に対して遺族恩給が支給されます。
なお、厚生年金や国民年金などの遺族年金や遺族恩給は、所得税も相続税も課税されません。
(2)確定給付企業年金法などに基づく遺族年金
遺族の方に支給される年金は上記の他、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支給される遺族年金などもあります。これらの年金は、相続税の課税対象になりますが、毎年受け取る年金には所得税は課税されません。
※確定給付企業年金に係る規約に基づいて支給される年金、特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいて支給される年金、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける退職年金が該当します。
(3)寡婦年金
寡婦年金は、死亡した前月までに国民年金の第1号被保険者として、保険料を納めた期間および国民年金の保険料免除期間(学生納付特例期間、納付猶予期間を含む)が10年以上(※)ある夫が亡くなったときに、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にあり、死亡当時にその夫に生計を維持されていた妻に対して、その妻が60歳から65歳になるまでの間支給されます。
※平成29年7月31日以前の死亡の場合、25年以上
ただし、亡くなった夫が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受けたことがある場合、妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受けているときは、寡婦年金を受けることができません。なお、寡婦年金は、遺族年金をもらえない人が受け取るための制度として作られています。そのため、寡婦年金と遺族年金の両方を受け取ることはできません。
また、寡婦年金は、所得税も相続税も課税の対象外です。
(4)死亡一時金
死亡一時金は、死亡日の前日において国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36か月以上ある方が、一度も老齢基礎年金や障害基礎年金を受給せず亡くなった場合に遺族が受けることができます。故人の死亡により、遺族が遺族年金を受給している場合は、死亡一時金の給付はありません。
上述した未支給年金との違いですが、未支給年金は、本来であれば受給されるはずだった年金を遺族が受け取る年金になります。そのため、故人にはすでに年金支給が開始されているのに対し、死亡一時金は故人が年金を受給せずに亡くなった場合に、遺族が受け取ることができるお金です。よって故人に年金支給が開始されていない点が異なります。
さらに、寡婦年金を受給する場合は、死亡一時金か寡婦年金か、どちらか一方のみしか受給できません。なお、国民年金の死亡一時金に相続税は課税されませんが、一時所得となるため所得税は課税の対象となります。
まとめ
年金受給者が死亡した場合、「受給権者死亡届(報告書)」を提出した上で、遺族が受け取ることができる年金や一時金についてしっかりと確認した上で適正な申請が必要です。基本的には、未支給年金として遺族の方が受け取ることになると思います。相続税や所得税の課税関係も異なりますので、どの年金や一時金を受け取ることになるのか、内容をご確認したうえで受給するようにしましょう。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)