今の時代、サライ世代にとって「生きやすい世の中か?」と問われたら、決して「生きやすい」とは答えられないように思います。それどころか、次第に「生き辛さ」が増しているようにも感じられます。その理由の一つが、社会通念の変化ではなかろうか? と思うのです。
それは、親や先輩、師と仰いだ人たちから指導を受け、身につけた「常識」が大きく変移しているからではないでしょうか? 別の言い方をするならば、社会を円滑に生きるための「世渡りの術」が、機能しなくなってしまった感じがいたします。
しかし、私たちが大きな変移と感じていることも、百年、二百年という単位で見れば、意外と小さな変化なのかもしれません。そのことは、今を生きる人々へ影響を与え続ける先人たちの名言や金言が物語っているように思います。
第14回の座右の銘にしたい言葉は「堅忍不抜(けんにんふばつ)」 です。
目次
「堅忍不抜」の意味
「堅忍不抜」の由来
「堅忍不抜」を座右の銘としてスピーチするなら
まとめ
「堅忍不抜」の意味
「堅忍不抜」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「しっかりしていて動かないこと。意志が強くて動揺しないこと」と説明されています。「堅忍」はしっかりと耐え忍ぶこと。「不抜」は抜き取られないこと。ここから、どんな困難や逆境にも屈せず、常に堅固な心を持ち続けるという意味です。
この言葉は、精神的な強さや、目標達成に向けての不屈の努力を象徴しています。1998年5月、第66代横綱に昇進した若乃花の伝達式で、「横綱として堅忍不抜の精神で精進していきます」と口上を述べたことでも知られています。
「堅忍不抜」の由来
「堅忍不抜」の由来は、中国北宋の書家、蘇軾(そしょく)が記した『晁錯論』(ちょうそろん)と言われています。その中に以下のような記述があります。
古之立大事者、不惟有超世之才、亦必有坚忍不拔之志。
【書き下し文】
古(いにしへ)の大事を立つる者は、唯(た)だに超世の才有るのみならず、亦(ま)た必ず堅忍不抜の志有り。
【現代語訳】
昔の大きな事を成し遂げた人は、ただ、ずば抜けた才能があるだけでなく、必ず堅忍不抜の強い意志があるものだ。
この言葉は、古代中国の文学や歴史の中で、多くの英雄や賢者によって引用されてきました。これはどんな困難や逆境も乗り越える強さと、目標に向かってぶれないことの大切さを教えてくれます。現代でも、多くのビジネスリーダーや成功者たちがこの言葉を信条として掲げ、難局を乗り越えてきた事例は数えきれません。
「堅忍不抜」を座右の銘としてスピーチするなら
「堅忍不抜」を座右の銘としてスピーチに用いる場合、自らが経験した困難や挑戦を乗り越えてきた具体的なエピソードを共有することが効果的です。たとえば、「この言葉に励まされ、私は〜の困難を乗り越えました。」という形で、個人の体験と結び付けることで、聞き手にもその価値を感じ取ってもらえます。
また、この言葉がどのようにして日々の生活や決断に影響を与えているかを語ることで、より深い共感を呼び起こすことができるでしょう。以下に「堅忍不抜」を取り入れたスピーチの例を三つあげます。
1:退職後の新しい挑戦についてのスピーチ例
皆さん、退職は終わりではなく、新たな始まりです。私たちの多くは、退職後もまだまだ活躍できるエネルギーと情熱を持っています。しかし、新しい趣味や活動、あるいはパートタイムの仕事を始めるとき、不安や困難に直面することもあります。このような時、「堅忍不抜」という言葉が私たちに勇気と持続力を与えます。困難を乗り越え、新しい人生の章を成功させるために、この精神を心に留めておきましょう。
2:健康問題との戦いについてのスピーチ例
健康問題は、私たちシニアにとって避けられない課題の一つです。病気や怪我と戦いながら、前向きでい続けることは容易ではありません。しかし、「堅忍不抜」の精神を持つことで、これらの挑戦に立ち向かう強さを持つことができます。病気の治療やリハビリを通じて、逆境に負けずに前進し続ける姿勢が、最終的には私たちを勝者にするのです。
3:スポーツでの精神力の見せ場についてのスピーチ例
私はマラソンランナーとして数々のレースに挑戦してきましたが、特に記憶に残るのは過酷な条件の中で行われたウルトラマラソンです。途中で何度も心が折れそうになりましたが、「堅忍不抜」の精神を思い出し、一歩一歩前に進み続けました。その結果、目標としていた完走を果たすことができ、自己ベストを更新することができたのです。この経験から、どんなに困難な状況でも決して諦めない心が、最終的な成功につながると学びました。
最後に
「堅忍不抜」を座右の銘として選ぶことは、自己成長への絶え間ないコミットメントを象徴します。この言葉には、自分自身を高め、目標に向かって進むための内なる力を引き出す力があります。皆さんもこの強い精神を持ち、日々の挑戦に立ち向かっていくことで、より充実した人生を送ることができるでしょう。
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com