ある程度の歳になりますと、よほど親しい友人でもない限り、本音で意見してくれたり、苦言を呈してくれる人などいないものです。若い人からも、徐々に敬遠されるようになってきますと、諫言(かんげん)されることもなくなります。
そうなってから始まる“長い老後”と呼ばれる生活にあって、考え方の柔軟さを保ち、激しく変化する社会へ順応するためには、何らかの指針を持っていたほうが良いのかもしれません。
温故知新の諺の如く、先人が残してくれた言葉や金言にヒントを得てみてはいかがでしょう。第13回の座右の銘にしたい言葉は「不惜身命(ふしゃくしんみょう)」 です。
目次
「不惜身命」の意味
「不惜身命」の由来
「不惜身命」を座右の銘としてスピーチするなら
まとめ
「不惜身命」の意味
「不惜身命」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「仏語。仏道修行のためには身命も惜しまないこと。死をもいとわない決意。」と説明されています。「不惜」は惜しまない、「身命」は身体と生命を指し、転じて、どんな困難も乗り越え、目的を達成するためには身を惜しまず全力を尽くすという強い決意を表します。
この言葉は、個人の深い信念や情熱を表現するのに用いられることが多く、特に困難な状況下での努力や犠牲を伴う決断を強調する際に使われます。この強い信念は、特にシニア世代にとって、人生の新たな章を切り開く鍵となるでしょう。
「不惜身命」の由来
元々は仏教語で、『法華経』が出典とされています。「身命を惜しまず」または「身命を惜しまざるべし」と読み下し、仏教求道のために身体も命も惜しまずにささげることを意味しています。現代ではさまざまな文化や文脈で使われるようになり、目的を達成するために全力を尽くすという普遍的な意志の象徴として広まりました。
それまであまりなじみのなかったこの言葉が一躍脚光を浴びるようになったのは、1994年のこと。九州場所後、横綱昇進を果たした貴乃花が「今後も不撓不屈(ふとうふくつ)の精神で、力士として不惜身命を貫く所存でございます」と口上を述べました。「くじけることなく、命を惜しまず、相撲道に精進する」という意味で、これは俳優の故・緒形拳さんが贈った言葉だそうです。
「不惜身命」を座右の銘としてスピーチするなら
座右の銘として「不惜身命」を選ぶことは、自身の決意と目標に対する深いコミットメントを表します。スピーチでこの言葉を使う場合は、個人の経験や困難に立ち向かった具体的な例を引き合いに出して、聴衆に感動や動機付けを与えることができるでしょう。以下に「不惜身命」を取り入れたスピーチの例を三つあげます。
1:起業家としての挑戦についてのスピーチ例
皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。私が起業を決意したとき、心に決めたのは「不惜身命」という言葉でした。この言葉は、どんな困難があっても、私の夢であるこのビジネスを成功させるためには、どんな犠牲も厭わないという私の決意を表しています。
初めの頃は資金繰りに苦しみ、失敗も多かったですが、この座右の銘が私を支え、前に進ませてくれました。今日ここで皆さんに私の経験を共有できるのも、この不惜身命の精神があったからです。
2:社会貢献活動での経験についてのスピーチ例
今日は私たちのNPOの活動についてお話しします。私たちの目標は、教育の機会が限られた地域に学校を建設することでした。このプロジェクトに取り組む際、私は常に「不惜身命」の精神を胸に刻んでいます。資金集めから物資の調達、現地での建設作業に至るまで、多くの困難や挑戦に直面しました。しかし、この言葉を思い出すたびに、どんな困難も乗り越える力を得ることができました。その結果、今日では多くの子どもたちが夢を育む場所を持てるようになりました。
3:個人的な病気との戦いについてのスピーチ例
皆さん、私がここに立って話しているのも奇跡に近いことです。数年前、私は重い病気と診断され、余命わずかと宣告されてしまいました。しかし、私は「不惜身命」という言葉を座右の銘として、病と闘うことを決めました。治療は困難で、多くの犠牲を伴いましたが、この言葉が私に勇気と決意を与えてくれました。今、私は奇跡的に完治し、再び日常生活を送ることができています。この経験を通じて、どんなに厳しい状況でも決して諦めない強さを内面から学びました。
まとめ
「不惜身命」という言葉は、ただの言葉以上のものを私たちに提供してくれます。それは、何か大きな目的や目標のために全力を尽くすという生き方そのものを象徴しています。この座右の銘を掲げることで、日々の挑戦に対しても臆することなく、常に最前線で自分自身を試し続けることができるでしょう。人生のどんな段階にあっても、この言葉は私たちに勇気と力を与えてくれます。
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com