会社にお勤めの方であれば、その勤め先で厚生年金に加入しているため、将来自分がいくら年金をもらえるのか、気になるところではないでしょうか。原則的に厚生年金は65歳から受給を開始することになります。長く会社にお勤めの方で、退職をすることで早期に年金を受給することがあるかもしれません。その場合、通常もらえる金額に加算される厚生年金「44年特例」というものがあります。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税務申告のサポートを通じて得た知識や経験に基づき、厚生年金の「44年特例」の概要や注意点についてご紹介したいと思います。

目次
厚生年金「44年特例」とは?
厚生年金「44年特例」のルールや条件とは?
「44年特例」で加算される年金の額は?
「44年特例」のデメリットや注意点とは?
まとめ

厚生年金「44年特例」とは?

44年以上厚生年金保険に加入している特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の受給開始年齢到達前に、退職などにより被保険者でなくなった場合、報酬比例部分に加えて定額部分も受け取れる制度のことを、総称して「44年特例」と呼びます。

この場合、被保険者でなくなった月の翌月分から定額部分を受け取ることが可能です。つまり、44年特例は、厚生年金に加入して、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を受けている人が、国民年金(老齢基礎年金)が支給される65歳になる前に退職などで被保険者でなくなったとき、本来であれば受けられない定額部分も、合わせて受給できる増額措置とも言えます。

また、加給年金額の対象者(子や配偶者)がいる場合、「老齢厚生年金・退職共済年金 加給年金額加算開始事由該当届」を提出することで、被保険者でなくなった月の翌月分から加給年金額を受け取ることが可能です。

特別支給

2024年時点における老齢基礎年金(国民年金)や老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳で、一定の条件を満たした場合には、60から64歳の間に支給を受けることができ、この制度を特別受給と呼びます。

特別支給の制度を利用することで、60歳から厚生年金の支給を開始することが可能です。そのため、経済的な影響を緩和することができるでしょう。

この特別支給には、老齢基礎年金に相当する定額部分と、老齢厚生年金に相当する報酬比例部分があり、通常は報酬比例部分を受け取り後に定額部分の受け取りを開始します。

加給年金額

厚生年金保険の被保険者期間が20年(※)以上ある方が、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その方に生計を維持されている配偶者、または子がいるときに加算されます。

65歳到達後は(または定額部分支給開始年齢に到達した後)、被保険者期間が20年(※)以上となった場合は、在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)に生計を維持されている配偶者または、子がいるときに加算されます。

(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

厚生年金「44年特例」のルールや条件とは?

44年特例を受けるための条件や届出に関しては、以下のとおりです。

44年以上の加入要件

厚生年金保険の被保険者期間には、日本年金機構の管理する厚生年金保険被保険者期間・公務員共済組合に加入している、または厚生年金保険被保険者期間・私学共済に加入している被保険者期間のいずれか1つの期間のみで、44年以上ある場合に限ります(それぞれの期間は合算しません)。

支給を受けるための諸条件

・昭和36年4月1日以前に生まれた男性
・昭和41年4月1日以前に生まれた女性
・老齢基礎年金の受給資格期間(10年)
・厚生年金保険1年以上の加入
・生年月日に応じた受給開始年齢に到達

届出書の提出について

受給者の方が退職後、お勤め先の事業所が被保険者資格喪失届を年金事務所に提出することで、この特例に関する手続きも併せて行なわれます。そのため、定額部分を受け取るための届出を受給者の方がする必要はありません。

「44年特例」で加算される年金の額は?

44年特例で加算される金額は、下記の「定額部分」と「報酬比例部分」の合計金額となります。

定額部分

定額部分とは、特別支給の老齢厚生年金の計算の基礎となるもので、厚生年金の加入期間に応じて変動し、計算方法は次のとおりです。

【定額部分の計算式(令和6年4月分から)】

・昭和31年4月2日以後生まれの方   
1,701円 × 生年月日に応じた率 × 被保険者期間の月数 ※

・昭和31年4月1日以前生まれの方
1,696円 × 生年月日に応じた率 × 被保険者期間の月数 ※

※被保険者期間の月数は、下記の生年月日ごとに上限となる月数が変動します。

・昭和9年4月2日から昭和19年4月1日生まれは、444月
・昭和19年4月2日から昭和20年4月1日生まれは、456月
・昭和20年4月2日から昭和21年4月1日生まれは、468月
・昭和21年4月2日以後生まれは、480月

報酬比例部分

報酬比例部分とは、老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金のいずれの給付においても、年金額の計算の基礎となり、年金の加入期間や過去の報酬等に応じて決まるものです。

計算方法は次のとおりです。

報酬比例部分 = A + B

A:平成15年3月以前の加入期間

平均標準報酬月額※1 × 7.125/1,000 × 平成15年3月までの加入期間の月数

B:平成15年4月以降の加入期間

平均標準報酬額※2 × 5.481/1,000 × 平成15年4月以降の加入期間の月数

※従前額

上記の計算式で算出した額が従前額を下回る場合は、従前額が報酬比例部分の額になります(以下計算式)。

(平均標準報酬月額※1 × 7.5/1000 × 平成15年3月までの加入期間の月数 + 平均標準報酬額※2 × 5.769/1000 × 平成15年4月以降の加入期間の月数)× 1.041

※1 平成15年3月以前の加入期間について、計算の基礎となる各月の標準報酬月額の総額を、平成15年3月以前の加入期間で割って得た額です。

※2 平成15年4月以降の加入期間について、計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15年4月以降の加入期間で割って得た額です。

「44年特例」のデメリットや注意点とは?

44年特例は一定の収入がある場合は、利用することができません。具体的には月額8万8千円の収入があると適用できず、退職をして44年特例を利用するか、働き続けるかの選択が求められます。収入が安定していれば、この特例を利用することなく65歳まで働き続けたほうが、手取り額は多くなる可能性があるでしょう。

まとめ

44年特例の制度の趣旨は、厚生年金の特別支給および受給開始年齢が65歳まで引き上がったことによる経済的な負担を減らすことを目的にしています。そのため、本来支給されなかった特別支給の老齢厚生年金の定額部分を早く受け取ることで、経済的な余裕が生まれるかもしれません。

ただし、退職をしないで65歳まで継続して働いた方が、結果的に特例を使うよりも、はるかに多く所得を得られる可能性もあります。安易に制度を利用するのではなく、それぞれのライフプランに合わせて検討されるのがお勧めです。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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