給与をもらって生活している会社員の場合、毎月自動的に給与から税金が差し引かれているため、その仕組みを知らない方も多いのではないでしょうか。税金の計算方法を知っておくことで、税額を抑えることが可能となります。
そこで今回は日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税務申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、会社員が納めるべき税金のうち、所得によって税率が異なる所得税の計算方法についてご紹介いたします。
目次
年収から引かれる税金とは?
所得税の計算方法
所得税の計算シミュレーション
税金が得な年収の額とは?
まとめ
年収から引かれる税金とは?
個人の1年間の収入に対して課税される税金には、所得税と住民税があります。住民税は個人の住んでいる市町村や都道府県に納める税金です。税率は10%と固定されているため、年収が多くなっても税率は変わりません(住民税には所得割と均等割りがあり、税率10%は所得割を計算するうえで適用される税率になります)。
一方で所得税は、年収によって税率が変わる累進課税方式が採用されています。累進課税は、税率を乗じる課税所得が多くなるほど税率が高くなるため、個人の年収が増えると税率も高くなり、所得税の負担も大きくなります。
所得税の計算方法
順番に計算していくと、所得税額が算出されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
(1)合計所得金額を計算する
所得税における合計所得金額とは、10種類の所得金額の合計金額のことです。所得金額は、収入からその収入を得るために支出した金額である必要経費を差し引いて算出します。必要経費には、実際にかかった経費の他、各種控除なども該当します。
例えば、会社員で給与の他に所得がない場合、給与所得が合計所得金額です。給与所得金額は、1年間の給与等の収入金額から必要経費にあたる「給与所得控除」を差し引いて算出することになります。
給与所得控除は給与収入を得ている人だけに適用される控除です。収入金額によって計算方法が異なり、55万円から195万円まであります。給与所得控除は以下の計算式で求めることが可能です。
【給与所得控除】
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額 × 40% - 100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額 × 30% + 80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額 × 20% + 440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
なお、給与所得控除の上限は195万円です。給与における年収が850万円を超えると、いくら年収が増えたとしても控除される金額は195万円で変わらないことになります。
(2)所得控除額の合計額を計算する。
所得控除とは、所得税額を計算するときに個々人の事情によって税負担を軽くするために設けられたものです。それぞれの所得控除に定められている要件を満たした場合に、控除を受けることができます。所得税には以下の15種類の所得控除があります。
・雑損控除
・医療費控除
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
・寄附金控除
・障害者控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・基礎控除
なお、控除される金額は種類によって異なります。例えば、社会保険料控除は給与から差し引かれた健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などの合計額が所得控除額となります。
基礎控除は合計所得金額に応じて差し引くことができる控除です。仮に合計所得金額が2,400万円以下の場合は48万円が所得控除額となります。
配偶者控除は、納税者と生計を一にしている配偶者で年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万以下)等の要件を満たせば、原則38万円が所得控除額となります。
(3)課税所得金額を計算する
課税所得金額は所得税率を乗じる金額で、合計所得金額から所得控除の合計額を差し引いて算出します。
(4)所得税額を算出する
所得税額は、課税所得金額に所得税の税率を適用して計算します。所得税の税率は、所得が多くなることに従って段階的に高くなる「超過累進税率」を採用しており、納税者の支払能力に応じて税を負担する仕組みになっています。
課税所得金額における所得税額は以下の速算表の通りです。
【所得税率】※課税される所得金額は、1,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得税の計算シミュレーション
【前提条件】
・給与等の収入金額 6,000,000円 独身
・健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料の年間支払額 900,000円
(1)合計所得金額を計算する
6,000,000 - 1,640,000(給与所得控除)= 4,360,000円
(2)所得控除額の合計額を計算する
480,000(基礎控除)+ 900,000(社会保険料控除)= 1,380,000円
(3)課税所得金額を計算する
4,360,000 - 1,380,000 = 2,980,000円
(4)所得税額を算出する
2,980,000 × 10% - 97,500 = 200,500円
よって、所得税額は200,500円となります。
なお、復興特別所得税(2.1%)も併せて課税されますが、今回は割愛しています。
税金が得な年収の額とは?
人によってお得になる年収は異なるとは思います。例えば、年収500万円から1,000万の会社員で、所得控除は基礎控除と社会保険料控除(年収の15%と仮定)と想定した場合、所得税率は10%もしくは20%を乗ずることとなります。仮に10%の税率をお得とするならば、年収600万では税率10%を乗ずることとなります。年収700万円でしたら税率20%を乗じることとなりますから、年収600万円あたりがお得ということになるでしょう。
ただし、給与以外に所得がある等により合計所得金額が異なったり、所得のない配偶者や扶養家族がいる等により所得控除の合計額が異なれば、税額が変わります。あくまでも目安としてお考えください。
まとめ
今回は、個人が納める税金のうち、所得税についてその計算方法を解説しました。所得税は、年収により税率が異なる超過累進税率が採用されています。年収から必要経費を差し引いた所得金額の合計額から、基礎控除や社会保険料控除などの所得控除を差し引いた金額に税率を乗じて算出する税金です。
所得税は、所得や控除できる種類が多くなれば多くなるほど計算が複雑になります。現在は、インターネットにおいて、収入金額を入力するだけで簡単に所得税を計算するサイトも紹介されていますので、それらを参考にするのもよいでしょう。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)