孫への手紙に書くことが見つからない

身内に犯罪者がいるというのは、心に重い意味を投げかけるという。

「これは、なってみないとわからないのですが、“人様に迷惑をかけてしまった”ということがまずあります。そして、ドラマやニュースの中でしか知らなかった、刑務所というところに入って、そこで生活をしているという重みです」

かつて、給食センターで働いていたときに、詐欺罪や公然わいせつ罪で逮捕され有罪判決が下された男性と働いたことがある。しかし彼らには執行猶予判決が出されており、服役までには至っていない。

「二人とも、びっくりするほどいい大学を出ていたことを覚えています。それなのに、片田舎の給食センターで、月20万円に満たない給料で一緒に働いている。そのくらい犯罪の罪は重いと。刑務所に入るのは、それ以上のことなんですよね。そうなる前になんとかできなかったのかといろいろと考えてしまいました」

あの時、優しく温かい祖母になり、中学生時代の孫を引き取り、話を聞いてあげればよかったのかと思ったが、当時の弓絵さんはそれができなかった。

「だって、あそこまでグレてる子供を引き取ったら、共倒れになると思ったんです。腕力では勝てない。それに、子育てにお金がかかることは知っているから、変な情けをかけて、お互い不幸な結果になるのは避けたかった。でも今思えば孫は子供だったんですよね。子供は誰かが守らなくてはいけない。周りの大人が寄ってたかって拒否しているんだから、孫が刑務所に入ったのは、私のせいでもあると思うようになりました」

せめて、孫の心の支えになればと、手紙を出そうとしたが、書くことが思いつかないという。孫との思い出は、箸の持ち方が悪く矯正しようとしたら茶碗を投げられたこと、掛け算の九九が覚えられない孫の頬を打ったことだ。

「孫は、仕返しに私が丹精していた朝顔を引っこ抜きましたからね。ろくな思い出がないんですよ。きっと向こうも私のことが好きじゃないと思う。だから、頑張れでもないし、罪を償えでもないし、何を書いていいかわからないんです。元気にしていて欲しいと思いますが、わざわざ手紙に書くようなことでもないし、帰ってくるのを待っている、というのは心にもないことだし……。帰ってきても、私に会わずに、そのまま自立してくれるのが私の願い」

弓絵さんは、生活に追われ続けてきた。今でもそれは続いている。長年の重労働が祟り、腰は慢性的に痛く、糖尿病の可能性も医師に指摘されている。

「貯金が300万円と、あとは微々たる年金。70歳はまだ若いから、今も働けており、月に10万円程度は稼げているけれど、それだっていつまで続くかわからない。また娘がお金をよこせだの、孫から助けてほしいと言われても、300万円は虎の子だから出せません。人生のツケってどこからどこまでで、いつまで払えばいいんでしょうか」

弓絵さんはおそらく、自分の口に糊して一生を終えることができるだろう。問題は娘や孫たちだ。自立しなければ、未来に暗雲が立ち込めてしまうだろう。

貧困は連鎖するという。社会的な仕組みの中で、その連鎖を食い止める策を講じていくことが、これから必要なのではないか。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。

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