取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子供は「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子供がいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

2024年2月8日、日本財団は、受刑者・少年院在院者(以下・受刑者等)の社会復帰を支援する新しい施策を実施した。それは、法務省と連携し、受刑者等への就労支援のために、メタバース空間での企業説明会を行なったのだ。

報道によると、当日は東京の日本財団ビルのほか、大阪から企業13社が参加。飲食業や建設業全13社が参加し、受刑者等からの質疑応答を受けていたという。受刑者等の社会復帰は社会全体が抱える問題だ。

最新の『矯正統計調査』(2023年11月)を見ると、日本の刑務所や拘置所に収容されているのは、4万496人だという。彼、彼女たちが懲役を終えて出てきたときに、居場所がなければどうなるのだろうか。

弓絵さん(70歳)は、「孫(20代)が、刑務所に入っているんですけれど、出てきて頼られても助けられないかもしれない」という。

結婚してから、貧乏続きの50年

弓絵さんは埼玉県内の古いアパートに住み、一人暮らしをしている。夫は15年前に膵臓がんで亡くなった。

「暴力は振るうし、怒鳴り散らすし、借金はするし、死んでくれてよかったんです。あんな男と結婚しなければ、私は幸せでした。私がパートで稼いだお金をギャンブルに使ってしまう。負けると大酒を飲んで帰ってくる。一度、酔っ払って帰ってきた夫を、川に突き飛ばしてやろうかと思いましたが、できませんでした」

話を聞く限り、ひどい夫だ。結婚のきっかけは、夫からの猛アプローチだったという。弓絵さんは福島県内の高校を卒業後、茨城県内のターミナル駅前にある喫茶店で住み込みで働いていた。美人店員として知られていた弓絵さんのことを、10歳年上の夫が見そめたのだ。

「夫は当時28歳、何かのセールスマンをしていました。布団、鍋、百科事典、健康器具などあらゆるものを売り歩いて成績はよかったみたい。銀座でハンドバッグと真珠のネックレスを買ってくれたこともあり、結婚を意識し始めました」

ネックレスのケースには、一流百貨店の名前が書かれていた。貧しい家に育った弓絵さんにはきらめいてみえたという。

「それにコロッときて、19歳で結婚。ほぼ年子のように、子供を3人生んだ25歳くらいから、世の中が不景気になって、夫がお金をくれなくなった。夫婦喧嘩が絶えなくなり、やがて夫は家に帰ってこなくなったんです。しょうがないから、私が昼間も夜も働いて、子供たち3人を食べさせていたんです」

化粧品の訪問販売、保険販売員、スナックの店員、キャバレーの厨房、不動産会社の事務員など、あらゆる仕事をしたという。

「50年間、(お金がなくて)ピーピー言っていますよ。女の給料が安い時代に、一人で子供を育てるのは大変。食べさせることで精一杯で、それでも米びつはあっという間に空になる。うちの子がお腹を空かせていることを憐んで、近くの人がお米を恵んでくれたこともありました。八百屋さんから売り物にならない野菜をもらったり、魚屋さんからは傷みかけた魚のアラをいただいたりして、どうにかこうにかして子供を育ててきたんです」

夫は弓絵さんに育児も家事も丸投げし、気が向いたときに帰ってきては、弓絵さんの財布からお金を抜いていった。

「1年留守にしていることもあれば、3か月間いつくこともあった。下手に刺激すると暴れるので、私も子供たちも無視していました」

【高校を出たら、一人暮らしをしてください……次のページに続きます】

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