取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子供は「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子供がいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

日常的にきょうだいの世話や、家族の介護、家事などを負担し、十分な学びや遊びができない18歳以下の子供を、ヤングケアラーという。

2015年ごろから注目され、今では多くの人に知られるようになった。各自治体も対策を講じているが、子供が声を上げにくいという問題が潜在的にあることは指摘されていた。

東京都は2024年2月9日ヤングケアラー支援のための新たなウェブサイト「ヤングケアラーのひろば」(ベータ版)を公開。ヤングケアラーについて理解を深めるとともに、ヤングケアラー当事者が、必要な支援につながるきっかけとしてもらうことを目的としているという。

賢治さん(68歳)は、「長患いをしていた妻の世話を、当時小学生だった娘に、任せっきりにしてしまったことを今は後悔している」という。

自治体からの扶養照会で、18年ぶりに娘と再会

賢治さんの娘(40歳)は、20歳のときに家を出てから、長らく音信不通だった。2年前、娘が38歳のときに北関東の自治体から扶養照会の連絡があったという。娘は生活保護申請をしていたのだ。それから、2年間、都内に転居した娘に月10万円の仕送りを続けている。それが老後資金を圧迫しているという。

「家を出てからの娘は、夜の仕事をしており、客と結婚したみたいです。それから昼の非正規の仕事をしていたようですが、心の病で働けなくなってしまった。離婚して男が家を出ていってしまってから、生活が困窮。友達の勧めで生活保護申請をしたみたいなんです。ほぼ20年ぶりに会った娘は、めちゃくちゃ老けていました」

娘は北関東の家賃8万円のアパートに住んでいた。夫が出ていってから、2か月間、家賃を滞納していた。

「もちろん、それを支払い、都内に引越しをさせました。娘も疲れたと言っていたので、都内に戻らせることにしたのですが、一緒に住めない事情があるので、家賃6万円のアパートを借りてやったんです」

一緒に住めない事情が、親子関係を悪化させる原因でもあった。それは、娘が8歳のときに、前の妻が病に倒れ、その世話をずっと娘にさせていたから。娘は妻が亡くなった1年後に家を出ていき、それから5年後、賢治さんは今の妻(65歳)と再婚している。

子供時代の娘の話を聞くと、まさにヤングケアラー状態だった。娘は母親が亡くなるまでの10年間、家事と介護に追われていた。部活もできず、友達ともろくに遊べず、青春というものがなかったのだ。

家事は重労働だ。料理、洗濯、掃除の基本に加えて、買い物、電話や宅配業者への対応など、すべきことは多い。

賢治さんは「女の子だし、お嫁に行くのだから、当時は家事をやって当たり前であり、本人のためにも慣れておくのはいいと思っていたんです。でも、今はすごく後悔している」という。一体、どんなことがあったんだろうか。

「あれは娘が8歳の頃です。娘が学校から帰ってきたら、妻が倒れていた。元々心臓が悪く、高血圧の家系で、結婚するときに妻の両親からそのことを言われていました。私の親もそれを知って大反対したのですが、若かったこともあり押し切ってしまったのです。体が弱いから出産は命がけだったこともあり、私はよく“ママはお前のことを自分の命と引き換えに産んでくれたんだ。感謝しなさい”というようなことを言っていました」

子供にとって、母親は絶対的な存在だ。そんな母は生命を賭して自分を産んでくれたと言われれば、その恩に報いなければならないというような感情も芽生えるだろう。

【学校から帰ったらすぐに、家事に追われる……次のページに続きます】

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