取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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コロナ禍以降、非接触ニーズに応えるかのように、スーパーマーケットのセルフレジや餃子や肉の無人販売店が目立ち始めた。それと同時に増えているのは、万引きの防犯ポスターだ。小売店に行くと、「STOP! 万引き」や「防犯カメラ監視中」などという張り紙が、あちこちに貼られていることに気付く。『犯罪白書』(2022年・警察庁)によると、非侵入窃盗のうち万引きが占める割合は、73.6%だった。
借金ばかり残して死んだ会社経営者の夫
久美子さん(60歳・主婦)は、「4年前に主人が死んでから心が休まる暇もない」と語る。彼女はコロナ前までは、裕福な家の奥様という風貌だった。東京23区内に持ち家(マンション)があり、髪を明るい栗色に染め、大ぶりなファッションジュエリーを付けていた。オシャレなアクティブシニアという雰囲気だった。
しかし、今はボサボサの白髪頭で髪も伸ばしっぱなしのロングヘアだ。メイクもしておらず、着古した化繊のワンピースを着ている。あまりの変貌ぶりに驚き、10歳年上の夫について聞くと、コロナ禍の直前に突然死したという。死因は心不全だった。
「生活の全てを主人に任せっきりにしていた私がバカだったの。亡くなって蓋を開けたら、会社は借金だらけ。一緒に会社をやっている人が、事業を承継してくれたから何とかなったけど、毎月私に入ってくるお金はなくなってしまったの」
生活費は、毎月30万円もらっていた。ボーナスの時期には100万円、200万円ともらっていたという。その生活に慣れてしまっていて、収入源が断たれてしまうのはきついだろう。とはいえ、夫は会社の経営者だ。死亡保険金もそれなりにかけていたのではないか。
「それもあったんだけど、個人名義の借金があり、生命保険の一部で支払ったの。今はお金はあるけれど、私があと20年生きることを考えたら、全然足りないくらい。主人は私に見栄を張っていたのか、“オマエの老後は大丈夫。貯金もしている”と言っていたのに、個人口座の残高はほぼゼロ。冷静に考えれば、主人は派手好きの見栄っ張り。お相撲さんの応援とか、新車で外車を買ったり、女の子がいるお店に行ったりしていたから」
夫は女性関係も派手だったという。夫は40歳のときに、それまで勤務していた総合商社から独立して会社を立ち上げた。
「亡くなってわかったのは、ずっといてくれる事務員が主人の愛人だったこと。今、57歳の女性は、主人にマンションも車も買ってもらっていて、今も主人の会社で働いているんですよ。実質的な妻だとわかったときはショックだったな」
しかし、女性には子供がいない。久美子さんには娘が2人いる。
「そこは勝っていると思う。彼女は主人の遺伝子を残せていないから。でも、娘……長女のことを考えると、子供なんていなくてもいいんじゃないかと思うのよね」
【娘は子供を連れて離婚し、実家暮らしを続けている……次のページに続きます】