取材・文/坂口鈴香

画像はイメージです。

「親から建築費を出してもらう条件は、将来の介護。なのに妻は…」(https://serai.jp/living/1163651)で登場してくれた沢登勇さん(仮名・58)は、サービス付き高齢者向け住宅に入居していた父親を自宅に戻したが、再び有料老人ホームに入居させざるを得なくなった。沢登さんの仕事中に父親がいなくなったり、排泄を失敗したりすることが多くなり、このままでは仕事を続けることが難しくなりそうだと危機感を抱いたためだ。

沢登さんは、父親を有料老人ホームに入れたので仕事を続けられているが、介護と仕事を両立できなくなって介護離職を選ぶ人も少なくない。「就業構造基本調査」(2022年)によると、介護をしながら仕事をしている人は365万人と、働く人の約5%を占めている。そのうち10万6000人が介護のために仕事を辞めているのだ。

そこで今回は、介護と仕事を両立するために知っておきたい「介護休暇」「介護休業」制度について解説しよう。

仕事と介護の両立支援制度には大きく

(1)介護休業
(2)介護休暇
(3)短時間勤務等
(4)所定外労働の制限
(5)時間外労働の制限
(6)深夜業の制限

などがある。

介護休業制度とは

介護が必要な対象家族1人につき、通算93日まで、3回を上限として取得できる。

「要介護状態」とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態をいい、介護保険制度の要介護・要支援認定を受けていなくても取得できる。

対象家族となるのは、配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。介護する労働者はパートやアルバイトであっても、申し出時点で要件を満たしていれば取得できる。

※要件:取得予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと

介護休業を取得するには、介護休業開始予定の2週間前までに書面などによって事業主に申し出なければならない。

介護休暇制度とは

介護が必要な対象家族が1人の場合は年に5日まで、2人以上の場合は年に10日まで、1日または時間単位で取得できる。

介護休暇を取得するには事業主に申し出る必要があるが、書面での提出だけでなく電話など口頭で申し出てもよい。

どう活用する?

介護休業も介護休暇も、労働者が自ら家族を介護するというより、働きながら介護していくための体制や環境を整えるために使うと考えてほしい。家族で介護の分担を決めたり、民間サービスやボランティア、地域独自のサービスなどがないか調べたりするほか、地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談、市区町村窓口での申請手続き、介護保険の認定調査などといった介護サービスを受けるための準備にあてることもできる。

さらに介護休暇は時間単位で取得できるので、通院の付き添い、ケアマネジャーが月1回行う状況確認やサービス担当者会議(ケアプランの作成や変更時にケアマネジャーが開催する会議)などにも活用できる。

介護休業中の給料は?

原則として休業中の給料は支払われないが、雇用保険から介護休業給付金が支払われる。一定の要件を満たせば、介護休業開始時賃金月額の67%が、介護休業開始日から最長3か月間支給される。

短時間勤務の制度とは

事業主は、(1)短時間勤務制度、(2)フレックスタイム制度、(3)時差出勤制度、(4)介護サービスの費用助成のいずれかの措置を、介護休業とは別に講じなければならない。労働者は、利用開始から3年間で2回以上利用することができる。

所定外労働の制限(残業免除)

労働者は、残業の免除を請求することができる。1回の請求につき1月以上1年以内の期間で請求でき、介護終了までの必要なときに回数の制限なく利用できる。請求は、利用開始日の1か月前までに書面で行う。

そのほか、時間外労働の免除、深夜業の制限、転勤に対する配慮、不利益取り扱いの禁止も定められている。

介護休業、介護休暇、所定外労働・法定時間外労働・深夜業の制限は、就業規則に制度がなくても、申し出によって利用できる。ただし、勤務先の労使協定の定めによっては、勤続年数が1年未満の人など、取得できない場合があるので確認しておこう。

会社独自の両立支援制度がないか確認しよう

会社によっては、独自の両立支援制度を設けているところもある。前年の有給休暇の未消化分を翌年度に繰り越して、介護休暇として利用できるなど、法律を上回る内容の制度を整備している会社もある。まずは職場に「介護をしている」ことを伝え、勤務先の支援制度を確認してほしい。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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