文/印南敦史
悪意はないのだろうとわかっているものの、相手の言葉にカチンときてしまったりすることはないだろうか? あるいは逆に、よかれと思ってかけたひとことが、相手を怒らせてしまうというケースも考えられるかもしれない。
いずれにしても、なにげない言葉が相手との関係によくない影響を与えてしまうことはあるものなのだ。そこで参考にしたいのが、その名も『無礼語辞典』(関根健一 著、大修館書店編集部 編集、大修館書店)である。
使い方や使う相手によって無礼になる約600語を「無礼語」と定義づけ、解説したユニークな辞典。配慮あることば選びをサポートしてくれるわけだが、決して「使用禁止リスト」ではないと著者はいう。無礼な言い方には、くじけそうな気持ちを奮い立たせる力もあるからだ。
でも、向ける方向を間違えたり、マイナスのニュアンスを意識しないで使ったりすると、相手を傷つけてしまうでしょう。その語自体は問題なくても、組み合わせる言葉や文脈によっては配慮を欠いた表現になることもあります。(本書「はじめに」より)
だからこそ、言葉遣いを「無礼」の視点から見なおしてみるべきだということ。そうすれば、相手に対する敬意とやさしさにあふれたコミュニケーションを実現することができるというわけだ。
ところで歳を重ねていくと、相手も自分も年齢に対して敏感になったりするものだ。そこでトラブルを回避できるように、ここでは「年齢」に関する無礼語をご紹介しよう。
いいとしをして【いい年をして】
「いい年をしてそんなことも知らないのか」
<年齢>「いい年」は、相当の年齢。分別のつく年齢に達しているにもかかわらずの意で、年齢に不相応な言動を皮肉って言うときに使われる。(本書10ページより)
ごろうたい【御老体】
「この寒さは御老体にはこたえるでしょう」
<年齢>老人の敬称。使い方によってはからかい、皮肉のニュアンスが入る。(本書82ページより)
じゃくはい【若輩】
「若輩の分際で何を言うか」
<年齢>若いこと。経験が浅くて未熟なこと。「若輩ですが、よろしくお願いします」のように自らについて使えば謙遜の意味合いになるが、他人について使えば軽蔑の気持ちを表すことになる。(本書98ページより)
としがいもない【年甲斐もない】
「先輩たちが年甲斐もなく騒いでいた」
<年齢>「年甲斐」は、年齢にふさわしい思慮、分別。そういう年齢であるのに、愚かなことをするのを、あざける気持ちで使う。(本書145ページより)
としににあわぬ【年に似合わぬ】
「年に似合わぬしっかり者だ」
<年齢>多く、年齢相応の期待を超えているとプラスに評価して言う。裏を返せば、年齢と能力とは連動するものであるという偏見に基づく考え方。「若さに似合わぬ」とも。(本書145ページより)
としのこう【年の功】
「批判をしても嫌味にならないとは、先生の年の功ですね」
<年齢>年をとることで積まれた経験による力を言う。褒め言葉ではあるが、もう若くはないと暗に言いたいのではないかと受け止められることもある。(本書146ページより)
ろうかい【老獪】
「部長の老獪さに振り回されている」
「先生が老獪ぶりを発揮されていた」
<年齢>経験を積んだからこそ得られる賢さ。「獪」は悪賢い、ずるいの意で、してやられるのではないかと警戒する気持ちが含まれる。(本書222ページより)
ろうこつにむちうつ【老骨に鞭打つ】
「引退など考えず、これからも老骨に鞭打って若い者をご指導ください」
<年齢>「老骨」は年老いて衰えた身体を表し、謙遜の気持ちを込めて用いる自称。「老骨に鞭打つ」は自らを奮い立たせる意の慣用句で、老人自らが使うもの。他人が言うのは失礼になる。(本書223ページより)
わかい【若い】
「失敗して落ち込んでいるなんて、まだまだ若いねえ」
<年齢>熟練していない、未熟で経験が浅いといった意から、たしなめたり、からかったりするニュアンスで使うこともある。
また、活動的な中高年者に、「お若いですね」と言うのも、敬服や羨望だけでなく、からかう気持ちがこもる場合がある。(本書224ページより)
無礼になるケースを紹介した例文や、言いかえ表現も収録されているので実用性抜群。つまり、「この表現はまずいのかな?」という不安をすぐに解消できるのである。また読み物としても、気軽に楽しむことが可能。近くに置いておけば、なにかと役に立ってくれそうだ。
文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。