文/鈴木拓也

以前はキャッチフレーズ的に使われた「人生100年」が、現実味を帯びる時代になった。

100年とまでは言わないまでも、80歳、90歳でかくしゃくとしているシニアが随分と増え、「元気で長生き」がリアリティをもって語られている。

他方、「定年後をどうする?」という課題が顕在化している。法律で、定年は65歳以上へと義務付けられたが、その後の人生はやはり長い。社会情勢を考えると、悠々自適や楽隠居はちょっと難しいと感じている人も多い。

定年後のお金の不安を払拭する3か条

悩める中高年に、定年後も「お金を稼ぐ、増やす、守る」を続けていくのが正解だと説くのは浦上登さん。1951年生まれの浦上さんは、今なお現役のファイナンシャル・プランナー。これまで数多くの定年前の人たちの相談に乗り、自身の経験をベースにしたアドバイスを行ってきた。その浦上さんが、著書『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)の冒頭で、人生の後半戦を充実させる秘訣として掲げるのは、以下の3か条だ。

1. 事業をできるだけ長く続けること。そのためには、好きな仕事を選ぶこと。
2. 資産運用はインデックス・ファンドへの長期積立投資をベースに、焦らず、中断せず、少額でも長く続けていくこと。
3. 年金、税金、保険などの知識を身に付け、少しでも自分の手取りを多くする方法を見つけること。

この3か条を読んで、「自分は準備万端」と胸を張れる方は少ないのではないだろうか。もし、まだ準備が整っていないなら、具体的に何をすればいいか? 本書からその一部を紹介しよう。

個人の立場で「好きな仕事」をする

定年後は、同じ職場で再雇用制度や勤務延長制度を選ぶにせよ、めでたく役員に昇格して職務に励むにせよ、いずれは職場を離れる時がやってくる。

その後の働き方として、浦上さんがすすめるのは「個人事業主としての起業」だ。

これには、多くのメリットがあって、まず自分のやりたい仕事を選べるというのが一点。ほかにも、年金を満額もらいながら働けるので、金銭的な心配が減るなどを浦上さんは挙げる。

統計的に見ても、働くシニアの約半数が個人のポジションで仕事をしているという事実があり、決して特殊なことではない。可能であれば、在職中に個人事業主として副業を開始して経験を積むことも、浦上さんはすすめている。

ここで重要なのは「好きな仕事」を選ぶこと。それを無視して、市場規模や将来性など外部要因を基準に選んでしまうと、ちょっとした障害にぶつかっただけで、続けようという気持ちがくじけやすい。そのため、何が「好き」なのか明確でない人向けに、人生の「棚卸シート」が載っている。これは、幼いころから今に至る、周囲の環境、やりがい、人間関係といった質問リストで、どんな意欲・能力を持っているかなど、普段意識されないことが見えてくる。それは今後の働き方を決める上で、有益な気づきとなる。

事務所を借りるのはNGな理由

個人事業主となるメリットとして見逃せないのは、税制上の特典だ。

例えば、青色申告特別控除といって、青色申告のルールに基づいた書類を出せば、確定申告時に最大65万円の控除が受けられる。これには、複式簿記で帳簿付けをするハードルがあるが、慣れるまでは記帳の仕方が自由な現金主義による青色申告(ただし控除額は10万円に下がる)にするという手がある。また、市販の会計ソフトを使えば、簿記の知識がそれほどなくても、青色申告はかなり容易になる。

それ以外にも、仕事を手伝ってくれる家族への給与、インターネットやスマホの通信費、業務に使うパソコン購入費などを経費として算入でき、節税をはかれるのも大きい。

逆に浦上さんが、はっきり「ダメ!」と明言するのは、「起業直後に事務所を貸借する」ことだ。実は、これから起業しようとする相談者の質問で多いのが、「駅近のビルの一室に事務所を借りようと思うのですが、どうでしょうか?」というもの。

カタチから入っていきたい気持ちもわかるが、開業時に「余分な固定費をかけない」のは鉄則だと、浦上さんは釘を刺す。

では、どうすればいいかというと、自宅を事務所にする。そうすれば、自宅にある備品(パソコンや机など)をそのまま使えるし、自宅にかかる固定資産税や火災保険料、電気代といった支出の一部を(事務所としての専有面積に応じて)経費とすることができる。そして、お客様が来られて対面でやりとるするのなら、「近くの喫茶店やレンタルルームを使えばよいのです」と浦上さんは説く。事業のスタート時は、支出はできるだけ抑えるというのは肝に銘じておきたい。

余裕資金は投資に振り分ける

第二の人生では、年金や働くことで得られる収入とは別に、手持ちの「余裕資金」を投資することも選択肢に入ってくる。

余裕資金とは、今後の収入や貯金から老後の「必要資金」を引いた額のこと。必要資金は、月々の生活費や住居費のほかに、要介護になるといった「まさかの時の備え」を加えた金額を意味する。必要資金は銀行口座にしっかりしまっておくが、余裕資金は前向きに投資に振り分ける。

ひと口に投資といっても多種多様だが、浦上さんがすすめるのは投資信託の「インデックス・ファンド」。「インデックス」とは、「大きな市場の指数」の意味。例えば日経平均株価指数は、東京証券取引所プライム市場に上場する企業の株式のうち225銘柄を選び、平均株価を算出したもの。S&P500種指数は、ニューヨーク証券取引所やNASDAQの上場企業のうち、500銘柄の時価総額から算出した数値。こうした日米を代表する企業へ、広く薄く投資するのがインデックス・ファンドであり、元本割れリスクが低いのがおすすめの理由となっている。

ただし、一点注意したいのは、投資信託の販売会社に支払う信託報酬手数料。この額ができるだけ低い会社と取引するのが「鉄則」だとも。

これ以外に、アメリカの国債や有事に強い金(きん)が挙げられている。この2つは、株価とは異なった値動きをするため、投資信託のリスクヘッジとなる。

「60歳になってからの投資は遅いのでは?」と、いぶかしむ向きもあるかもしれない。が、平均余命を考えると、「長期投資に必要な寿命は残されていると考えていいでしょう」と浦上さんは言う。

定年後も、お金と仕事の面で考えること、実行することは結構多い。本書を手引きにしっかり学んでいこう。

浦上登氏公式サイト(サマーアロー・コンサルティング):https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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