精神科医の和田秀樹さん(63歳)が高齢者の新たな可能性について綴った『シン・老人力』(www.shogakukan.co.jp/books/09389117)。読めば勇気と元気がわくと話題の同書から、高齢者がいつまでも若々しく自分らしく生きるために、「口グセ」にしてほしい言葉について、和田さんが紹介します。
文/和田秀樹
人生が長いことを前向きに捉える
定年後を生きる人たちに、とくにお勧めしたいフレーズがあります。
植木等(うえきひとし)さんが「そのうちなんとかなるだろう」と歌っているのを聞いたことがあるでしょうか。
これは、昭和39(1964)年にヒットした『だまって俺について来い』の、脳天気なくらい明るいサビの一節です。
「そのうちなんとかなるだろう」と口に出してみましょう。
老後は体力が落ちてくるし、記憶力も悪くなります。さまざまな機能が衰えていくため、ものごとを否定的に捉えるマイナス思考に陥りがちです。
しかし、このマイナス思考にとらわれてしまうと行動力が鈍り、前頭葉の機能は一段と衰えてきます。
結果、意欲が衰え、ますます行動力が鈍り、さらに前頭葉が衰える負のスパイラルに入ってしまいます。うつ病の発症要因にもなってしまいます。
行動を変えれば心も変わる
歳を重ねるほどプラス思考を心がけましょう。
その理由のひとつが、プラス思考をすれば脳内でドーパミンの分泌量が増えるからです。すると「楽しい」「幸福だ」と感じ、脳では前頭葉の動きが活発になって、思考力や意欲が高まります。
要するに、頭がよく働くようになります。
マイナス思考にとらわれそうなときは「なんとかなるだろう」と口に出してみることです。「行動を変えれば心も変わってくる」という行動療法の応用です。
日本を代表する稀代(きだい)の経営者として知られる松下幸之助(まつしたこうのすけ)さんは、社員採用の面接で「君は、自分は運がいいと思うかね」と尋ね、「運がいいと思います」と答えた人だけを採用したという伝説があります。
これは松下さんが、「人生では楽天主義が大切」と考えていた証左だと思います。
私は老後こそ楽天主義が必要だと思っています。
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和田秀樹(わだ・ひでき)
精神科医。1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は川崎幸病院精神科顧問、ルネクリニック東京院院長などを務める。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。著書に『80歳の壁』『70歳が老化の分かれ道』など多数。