『80歳の壁』ほか、ベストセラーを連発する和田秀樹さんが新提言
超高齢社会の課題が山積する日本で、私たちはどう生きるべきか。『シン・老人力』を上梓した和田秀樹さん(63歳)の思いを聞いた。
いつまでも若々しく、元気で人生を楽しみたい。みなさんが願っているのは、ただ長生きすることではなく、好きなものを食べ、楽しいことをして過ごす時間を長くすることでしょう。80歳や90歳になっても、年齢を感じさせない元気な人が急速に増えました。少なくとも60代、70代の大半は、身体機能も認知機能も若い世代と比べて、ほとんど遜色ありません。
お金に余裕がある人も多いようです。現役時代、日本経済が今よりずっと強かったからでしょうが、約2000兆円に上る日本の個人金融資産のうち、7割を60歳以上がもつとされます。日本が経済力で世界を席巻していた時代を支えてきたため、相応のお金を貯えています。日本の高齢者はいろいろな意味で“最強の世代”と呼べる存在ではないでしょうか。
少し乱暴な言い方ですが、お金を使うと、人は元気になります。意欲をもって積極的に行動する、何かを面白がって前向きに楽しもうとすることで、老化のスピードが抑えられます。ガンや認知症などのリスクを下げることにもつながります。高齢になったら、もっと自分らしく好きに生きる。これこそ高齢者が長く元気でいるためのシンプルな秘訣なのです。
私は、急増する元気で活動的な高齢層を「シン・老人」と捉え、その動向を注目しています。世界中のどの国も経験していない長寿社会を、旧来の常識や価値観に縛られて生きていては、幸福に暮らすことはできません。人生100年時代の主役となるのは、シン・老人たち。今の高齢層は自分たちの実感以上に、経済力であれ発言力であれ、体力や行動力であれ、世の中にインパクトを与える力をもっています。それがシン・老人たちのもつ「シン・老人力」です。元気で活動的な期間をできるだけ長く保ち、その力を充分に発揮していただきたいと思うのです。
「シン・老人力」の概念とは
今から20 年以上前、旧世代とは違う元気な高齢者を「新老人」と呼び、社会に役立つ力を発揮してほしいと訴えたのは、聖路加国際病院元理事長の日野原重明さんでした。また、美術家・作家の赤瀬川原平さんは「老人力」なる表現で、高齢者の新たな力に着目しました。私の唱える「シン・老人力」は、こうした先人の発想を今の時代に合うように進展させたものです。シンとは単に「新しい」という概念だけにとどまりません。上記のように、進、深、芯、親、心、身、紳など、さまざまな漢字に変換することができます。豊富な人生経験をもつ多くの高齢者には、こうしたシン・老人力は、すでに備わっているとも考えられます。
日本経済が右肩上がりだった時代を生きてきたシン・老人たちにとって、今の日本は息苦しい社会に感じるのではないでしょうか。そんな閉塞状態を打ち破り、“ニッポン再生”を果たすためにもシン・老人力は欠かせません。自信をもって自分の望むように日々を送り、人生を楽しんでください。それが自身の健康長寿ばかりか、日本経済や旧来型の価値観を変革するパワーにもなります。
取材・文/五反田正宏 写真協力/毎日新聞社
高齢者向けの著書が次々とベストセラーになっている精神科医の和田秀樹さんが、「シン・老人力」という新たな概念を提唱。いつまでも若々しく、自分らしく、暮らすための秘訣を説く。シン・老人力は日本社会を変革し、低迷する経済を救うカギにもなるという。世界基準に照らした医学的な方法論だけでなく、30年にわたり、6000人以上もの高齢者と向き合ってきた和田さんの経験則に基づき、シン・老人力をつけるための具体的な方法を提案する意欲作だ。
※この記事は『サライ』本誌2023年8月号より転載しました。