精神科医の和田秀樹さん(63歳)の新刊『シン・老人力』が話題を集めています。和田医師は停滞するニッポンを救うのは、高齢者の新たな力だと説きます。発売を記念して行なわれた「世界最高齢プログラマー」の若宮正子さん(88歳)との対談の一部を、全7回でお届けします。第6回は、古き良き日本文化の復活などについて語り合います。
●対談を収録した動画は下記より視聴できます。
少子化対策は人手不足解消にはならない
和田秀樹(以下、和田) (人手不足で)岸田総理大臣が異次元の少子化対策とか言い出してるわけですけど、少子化対策をしたところで子どもが本当に増えて、その人たちが労働力になるのは20年後になるわけです。
若宮正子(以下、若宮) そうですね。
和田 ところが、20年後はもうAIとかロボットが全部やってくれて、逆に仕事がないかもしれない。ですから、生きている高齢者の人に元気なってもらったほうが、よっぽど人手不足は解消すると思うんですよね。
若宮 時代はどんどん変わります。私なんか88年間、歴史絵巻みたいに見てきましたけど、時代は変わる。社会主義が崩壊したり、資本主義に限界がきたり……。たぶん、もうすぐまた変わると思います。
和田 おそらく、そうですよね。だってAIの時代になって、実質、労働力が必要なくなったら世の中が失業者だらけになって、資本主義の次の社会を求めないといけないかもしれない。
若宮 そう思います。
和田 ですから、何が起こるかわからない社会なのに、今の常識にとらわれてばかりいないほうがいい。唯一、残るのは人間の主観なわけですから。
若宮 そうなんです。
コーヒー牛乳を飲むのが幸せだった
和田 ですから我々、精神科医の立場から見ると余計そうなんですけど、主観的に幸せかどうか、主観的に楽しいかどうかというのは、AIに変わってもらうことができないから、とても大事なことなんです。
若宮 そうそう。私もね、今まで生きてきた中で、6畳アパートに住んで、お母さんと銭湯に行っていた頃のほうが幸せだったのかもしれないと思うことがあります。
和田 あの頃のね。
若宮 それで自宅のアパートにお風呂ができたら、逆につまらなくなっちゃって……。
和田 なるほど。銭湯は本当にいい文化だったと思います。僕はおばあちゃんに連れられてよく行ったんですけど、おばあちゃんはずっと貧乏でしたけど、みんなに声をかけられて友達がたくさんいて。
若宮 そうそう。
和田 それで、そこでコーヒー牛乳を飲むのがすごく幸せだったわけです。ですから、高齢者が増えてきたから、また銭湯を復活させようとか考えてもいいと思う。だって、家の風呂で死ぬ人が年間2万人いるという調査結果だってあるわけだから。
若宮 銭湯だけじゃなく、これからは電気代も大変なわけだから、公民館みたいなところでおしゃべりするだけでもいいと思いますね。
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●和田秀樹医師の新刊『シン老人力』の情報はこちらから。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389117
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和田秀樹(わだ・ひでき)
精神科医。1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は川崎幸病院精神科顧問、ルネクリニック東京院院長などを務める。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。著書に『80歳の壁』『70歳が老化の分かれ道』など多数。