シスターフッド……女性同士の連帯が叫ばれる昨今、実際の友情をテーマにライター・沢木文がインタビューからわかったリアルを紹介する連載。今回のテーマは「推し活」だ。
コロナ禍以降、注目を集めているのが俳優やアイドルや歌手、ゲームやアニメのキャラクターを愛でたり、応援したりする「推し活」だ。メディアでも「推し活は若返る」「年齢を重ねても推し活で元気だ」など、推し活をすすめているトーンの記事が多い。
東京都に住む晶子さん(60歳・パート)は、「推し活に血道を上げている人を見ると、ばかばかしいと思ってしまう。私のような人が取り残されているように感じる」と語る。彼女がそう思うようになったのは、20年来のママ友・典子さんの存在だ。典子さんは推し活にのめり込み、人が大きく変わってしまった。その様子を見ていて、晶子さんは「推し活は現代社会の闇だと思う」と言う。
「推し」がいないことをバカにされる
「何にも好きになれないことって、欠陥なんでしょうか」と晶子さんは話し始めた。彼女が心を通わせていた友人・典子さんのほか、周囲にはいろんな推し活をしている人がいるという。
「多いのは歌舞伎俳優、アイドルグループ、歌手、俳優など。私に興味がなくても、その話をする人が多くなり、孤独を感じています。私に何らかの推しがいれば、気持ちもわかるのでしょうけれど、私は何も好きになれない。全く理解不能です」
強い言葉で晶子さんが言うのは、「ファンは単に搾取されていると思っているから」だという。
「友人だった典子は、コロナ禍にある俳優を好きになったのですが、出演作を映画館で20回以上観て、高額な関連グッズやパンフレットをいくつも購入して飾っていることを自慢してきました。どこに行っても、俳優のアクリルスタンド(10cm程度のアクリル板に、俳優の写真がプリントされたもの)と同伴で、写真を撮影してInstagramに上げるんです」
晶子さんはそれを不快に思っている。
「誰かと会っているときは、その人との時間を楽しむべきだと思うんです。でもそこに、アクリルスタンドがあると、そっちに気持ちが向いてしまう。そのことを私が指摘すると、“晶子には推しがいないからだよ”とバカにした口調で言うんです」
典子さんは推し活をする前は、気が合い、お互いの子供の進路、パートや親の介護のことなどを話し合える仲だったという。
「そうだったんですよ。お互いに“無理はしない。見栄を張らない”という考え方が似ていて、情報交換したり、共感したり……そうだ、登山もしました。お互いの息子が高校に入ってからは、高尾山、陣馬山、石老山などにも行ったんです。典子は湯沸かし器と陶器のマグをしょって登ってくれて、頂上でコーヒーを淹れてくれたこともあったっけ」
お互いに病弱な夫がいることもあり、老後は一緒に長野県で住もうという話も出ていたという。
「夫が建てたセカンドハウスが長野にあるんです。お互いの息子が小さいときに、夏を過ごした場所でもあり、私も典子も気に入っている。5年前に夏用のログハウスから、高気密高断熱の家に建て替えて、そこで一緒に住もうかと言ったこともありました。今はそんなことをしたら、その俳優の推しグッズだらけになってしまうのでお断りですが」
しかし、その頃から不穏な兆候はあったという。典子さんは、「ろくに来ない山荘に、何千万もかけて建て替えるなんて、家道楽なんだね」と言ったのだ。
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