取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
シニアの間で、「推し活」が話題だ。これは、俳優、スポーツ選手、歌手などを“推す(応援する)”活動のことを指す。
珠美さん(65歳)は、4年前に最愛の夫(享年65歳)をすい臓がんで亡くす。悲しみの縁にいるときに、たまたま見たテレビで、50代の俳優のドラマを観て“推し活”を始める。誰かを好きになると、毎日が輝く。
パソコン操作に慣れ、パートも復帰。俳優のイベント、舞台やトークショーなどに通ううちに、俳優をデビュー前から応援し、個人的にも親しい古参ファンの弥生さん(63歳)に「友達になりましょう」と声をかけられる。
下心あって近づいてくるファンが多い中、純粋に作品と存在を推している珠美さんを好ましいと思ったのだろう。
【これまでの経緯は前編で】
「明日、イベント来れる? 来れないの? あちゃ~。残念だね」
珠美さんは弥生さんのLINEには即返事をしていた。それもそのはず、弥生さんは自分が推している俳優の元マネージャーと結婚し、俳優が信頼し、そのプライベートも知っているのだから、ファン歴が浅い珠美さんにとって、弥生さんは神に近い存在だ。
「弥生さんは、検索してもたどり着けない情報を教えてくれました。例えば、昔、俳優が出ていた地方のCMのYouTubeのURL、無名の時期に出ていた自主制作映画のDVD、最初に結婚した妻の写真などなんでも持っているんです。送られてくるたびに“凄い!”とはしゃいでいました」
しかし、その量がすごい。一時期は1日20以上のLINEが来ていたという。弥生さんはそれらに対してすぐに感想を求めた。しかし、珠美さんは老眼も進んでおり、すぐに返事はできない。放置すると「お~い」というLINEが来て、イラっとしたという。
「私は、推し活の時間と、その他の時間を明確に分けています。俳優に夢中になってはいますが、家事、パート、仲間との歓談や、近所の人の付き合いも同じくらい大切にしています。でも、弥生さんは違う。熱狂的に俳優を推していたんです。あるとき、“明日、イベント来れる?”というLINEが来ました。予定があって、私は“行きたいけど、パートが休めないの”と返信をしたんです。すると、“どうしても休めないの?”と返信があり、私が“迷惑はかけられないわ”と返す。そして“来られないってこと”、“明日はムリね”、“あちゃ~。残念だね”と往復をしなくてはいけない。これが負担だったんです。そもそも、前日に突然誘うことに無理があります。1度断っても、さらに追いかけて来て、“あちゃ~”と言われる。そして、“イベントに来ていたら会わせてあげたのに”と続ける。これが、負担になってしまったんです」
ほかにも、俳優の妹が趣味で描いているという高額な絵をすすめてきたり、俳優の親友のライブのチケットを買わされそうになったこともあるという。
「私が購入しても、弥生さんのポケットには一銭も入らない。弥生さんと知り合って1年もする頃には、俳優は弥生さんの一直線なところを、利用していると気付いたのです」
【インスタのプライベートアカウントを教えてあげる……次のページに続きます】