シスターフッド……女性同士の連帯が叫ばれる昨今、実際の友情をテーマにライター・沢木文がインタビューからわかったリアルを紹介する連載。今回のテーマは「推し活」だ。
コロナ禍以降、注目を集めているのが俳優やアイドルや歌手、ゲームやアニメのキャラクターを愛でたり、応援したりする「推し活」だ。メディアでも「推し活は若返る」「年齢を重ねても推し活で元気だ」など、推し活をすすめているトーンの記事が多い。
東京都に住む晶子さん(60歳・パート)は、「推し活に血道を上げている人を見ると、ばかばかしいと思ってしまう。私のような人が取り残されているように感じる」と語る。彼女がそう思うようになったのは、20年来のママ友・典子さんの存在だ。典子さんは推し活にのめり込み、晶子さんのことをないがしろにするようになった。また、晶子さんの周辺には、推し活をする人が増えており、俳優の自宅を見にいくなどの活動に、巻き込まれているという。
【これまでの経緯は前編で】
「食事に行こう」と誘われた下町の定食店
推し活をしている人との距離を感じていたある日、典子さんから「いい店を見つけたから、行かない?」と連絡があった。
「彼女が俳優にハマるまでは、平日のランチタイムに老舗や有名店でランチをするのを楽しみにしていたんです。コロナ禍もあってそんな機会も激減し、久しぶりだと楽しみにして待ち合せたら、珍しく下町のほうだという。彼女についていくと、私が苦手なタイプのお店でした」
男性客が多く、騒々しく、木の割りばしで、水がセルフサービスという大衆食堂だ。
「テーブルもお皿も油っぽくて、掃除も行き届いていない。食事の前に手を洗おうとしたら、お手洗いのシンクの上だというんです。水垢もあり、石鹸も黒ずんでいる。気持ち悪くなって便器を見たら、黄色い水滴がはねている。どうにもこうにも気持ち悪くて、お店から出てしまったんです」
持っていた消毒液を手に塗り、全身に抗菌スプレーをかけた。典子さんには向かいの喫茶店にいるとLINEをしてホッとしたところで、新たに入って来た客が紙巻きたばこに火をつけた。
「私はタバコアレルギーなので、お店の方には事情を話して、外に出ました。わざわざ1時間もかけて嫌な思いをしている……涙があふれそうになりました。駅前のコーヒーチェーンでルイボスティーを飲みながら待っていると、典子さんが“なんで帰っちゃったのよ”と文句を言ってくるんです」
典子さんがその店に行ったのは、俳優が下積み時代にそこでアジフライ定食を食べていたと過去のインタビューに書いてあったから。しかし、典子さんは青魚が苦手なので、アジフライは食べられない。そこで、アジフライが好きな晶子さんから、一口もらおうとしたのだという。
「実際に、その店は市場で仕入れており、評判だといいます。でも、あのお食事の環境は私には無理。そのことを言うと、“箱入り婆さんだね”って茶化すように言われたんです」
晶子さんも典子さんも、世田谷区に住み、中の上の会社員の妻の生活をしている。夫に人並み以上の収入があり、晶子さんのパートは子供向け英会話教室の事務兼講師で、典子さんも銀行の窓口案内で働いている。生活の苦しさとは一線を画していることはわかる。双方のひとり息子は30歳だが、独身で結婚の予定もない。孫も欲しいとは思っていない。
「自分の生活は恵まれていると、感謝しています。でも、衛生的に不安があるお店で食事ができないことを、バカにされる筋合いはありません」
【恋愛発覚で、ネットに書き込む誹謗中傷……次のページに続きます】