理由なく断られるようになった
全5回の刺繍教室が終わっても、絵美さんとの友情は続いていた。相手の経済負担を考え、自宅に招いてランチをした。
「普通は手土産を持ってくるのに手ぶらでしたので、私の判断は間違っていなかった。女性の人生はいろいろあるのだと思ったのです」
そのうちに、絵美さんがその他の同級生も誘い始めた。旧友との再会が最初は楽しかったという。
「コロナもあって、なんとなく外で会いにくいという気持ちもありました。そのうちに、皆が私と距離を置き始めたのです」
淳子さんの家は、都内でも高級住宅街にある。一方、絵美さんの家の周辺は所得が低い。他の同級生もおそらく似たり寄ったりの経済レベルなのではないか。
人間が1対1で付き合う場合、お互いの生活背景はさほど気にならない。ただ、集団になるとそこに優劣が生じる。一番お金を出している・持っている淳子さんがその集団の頂点に立ってしまったのではないだろうか。恋愛と同じように、“よそ者”が入ってくると、パワーバランスが崩れるのは、友情でもよくあることだ。
そのとき、淳子さんは全員で交わしていたというグループLINEを見せてきた。タイトルは「花の〇〇(学校名)組」。メンバーは4人いるが、1か月前から新規のメッセージは誰も発信していない。
淳子さんが「このやりとり、なのよ」と言いながら見せてくれるトーク画面には、淳子さんが送った写真が多かった。料理のレシピ、おすすめの調味料、ベランダの花、ワイン、刺繍などだ。
「絵美やみんなは何年かに1回会っていたと思う。私はホントに久しぶりの再会で、もっと私を知ってもらおうと、写真を送っていたの。文章にしなかったのは、忙しいから、返事をするのが大変だと思ったから」
友達関係において、金の貸し借り以上に一方的な発信はしない方がいいという鉄則がある。有名人なら話は別だが、単なる同級生の生活報告は、積極的に見たいという人はいない。おそらく、年齢的にその他の人には孫もいたはずだ。皆、それを見せたいのに、子供がいない淳子さんに気を使って話を出さなかった可能性もある。
「そんなの、言ってくれなくちゃわからないし、迷惑ならそう言えばいいのに……」
それを言わないで“察する”のが女同士の友情だ。自宅に集まってたのも、コロナを警戒していた淳子さんのために、集まって“あげて”いたかもしれないのだ。
「今は絵美も“その日は都合が悪い”などと言うようになりました。明らかに会う回数は少なくなった。また一から友達をつくらなくちゃいけないかと思うと、大変です」
淳子さんはそう笑ったが、それがうまくいくかどうかはわからない。友情の基本は、“心と時間のギブ&テイク”と“適度な距離感”だ。これが淳子さんには抜け落ちているように感じてならない。このことは誰も教えてくれず、それは自分で気づくしかない。
女の一生は長い。少なくてもこれから20年以上ある。その最後まで一緒にいられる友達は、まさに“奇跡”に近いのかもしれない。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。