シスターフッド(女性同士の連帯)を描いた映画やマンガがヒットし、女性同士の友情が注目されている。しかし、現実は、うまくは行かない。これは、友情が生まれてから崩壊するまでの道を、ライター・沢木文が取材し、紹介する連載だ。
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スマートフォンの普及が進み、若者層だけでなく、60代以上の層がSNSを活用していることが当たり前になっている。調査会社ICT総研が実施した「2022年度SNS利用動向に関する調査」を見ると、日本のSNS利用者は約8270万人だという。国民の8割以上が何らかのSNSを使っているともいえる。
多くの人数が使うほど、トラブルは発生する。中でも「世代による文化の格差がトラブルにつながる」と語るのは波奈さん(40歳・会社員)だ。
波奈さんは12年通ったお茶の先生であり、憧れの女性である貴和子さん(60歳)のSNS開設を手伝い、友達としてつながったことが、軽蔑と失望の序章だったと語る。
【これまでの経緯は前編で】
Facebookで私の友達に友人申請
SNSごとに文化は異なる。例えばTwitterやInstagramは公開アカウントであれば基本的にメッセージを送らなくてもフォローをしていい。しかしFacebookは実際に対面で会ったことがない場合は、メッセージなしの友人申請はしない。これは長年使い続け、空気を読まないとわからない。
「貴和子さんは承認欲求が意外と強かった。いきなりSNSの世界が広がり、友達がいないことに焦ったのか、私の友達を片っ端からフォローし始めたのです。InstagramやTwitterはそれでもいい。でもFacebookで友人申請をするのはマナー違反です。私はFacebookは“オフィシャルの場”と心得ており、仕事関連の人々とつながり、自分のポートフォリオ的に使っていました。そこに貴和子さんが“波奈の友達は私の友達”とばかりに、片っ端から友人申請をしたのです」
友達から「この人、誰?」と貴和子さんのスクリーンショットが続々と送られてきた。
「友人は私だけという、得体のしれないアカウントが友人申請してきたら驚きますよね。経緯を説明すると、友人の一部は“この貴和子さんってそんなすごい人なんだ”と手のひらを返す。そういうところに直面するのも嫌でした」
貴和子さんのSNSの投稿は派手だった。美しい食事、セレブリティとの会食、アートやジュエリーのコレクションなどを次々とアップ。瞬く間にフォロワーを増やしていく。加えてFacebookの友達も1000人近くになっていた。
「それまで、“私だけの貴和子さん”だったのに、いろんな人に知られるようになり、もやもやしました。それと同時に、いいね! が増えると、承認欲求が満たされて暴走する可能性もあると感じました。いいね! を”他人に認められた”と受け取ると、増長してしまうんですよ。すると、この世代の人は説教を始める」
貴和子さんがメインに使っていたのは、Instagramだった。Instagramは、基本的に相手を褒めるコメントしかしない。それなのに、相手を批判する発言を繰り返すようになっていた。貴和子さん特有の「笑顔で嫌味」も会話なら許容できるが、文章になるとインパクトは強く、重い。
「私の友人の育児の悩みの投稿に対して、上から目線で忠告していましたからね。あと、私の上司の趣味は着物なのですが、貴和子さんはその投稿に対して、柄合わせと半襟の色について、“それは合っていない”という嫌味コメントを入れていました。まさか直接会ったこともない人に、“着物警察”をするとは……」
【波奈さんのクライアントの製品を痛烈批判……次のページに続きます】