「お人形さん」呼ばわりされる結婚生活

当時の淳子さんには男性経験がなく、夫が始めての相手だった。

「今では信じられませんが、“結婚するまでは関係を持たない”という社会通念がありました。それはタテマエで、本音はみんな違ったらしいのですが、私は真に受けていた。それもあって主人は結婚を急ぎ、入籍して関係を持った後から、徐々に態度が冷たくなったんです」

性格と性の不一致は、夫婦関係に影を落とし続けていく。

「私は見た目こそ奔放に見えるのですが、実際には違います。男の人がダメだったのかもしれません。父親と兄、主人も含めて、私が出会った男性は、わたしのことを平気で傷つけてくるし、話を聞いてくれないし、乱暴。結婚して男性恐怖症だとわかったんです。女子高育ちということもあり、女性に気持ちが寄り添うというか。これまでにハマったテレビドラマは、浅野温子さん、浅野ゆう子さんが出演した『抱きしめたい!』(1988年)や、安田成美さんと中森明菜さんが主演を務めた『素顔のままで』(1992年)など。女性と生きていきたいと心のどこかで思っていました」

淳子さんは子供を産まなかった。そんな妻に対して、夫は尽くしていたようにも感じた。夫が亡くなっても、それなりの財産、住む家があるので、生活は困っていない。

「これまでずっとがまんしてきましたから。ホントにいろいろあったんですよ。主人の愛人が家にきて私に離婚を迫ったり、義母から“子供を産まないお人形さん”と言われたり。さんざんな目に遭っても、私のガマンが勝ちました」

そんな中、有り余る時間を有効に使おうと、淳子さんは前から興味があった刺繍を習い始める。

「最初は適当なところでいいと、区のフランス刺繍の教室に行ったんです。するとそこには、高校時代の同級生・絵美がいました。マスクをしているのに、向こうが先に気付いてくれました。あの瞬間はとてもうれしかったです。この再会でこれからの人生が豊かになると確信しました。というのも彼女と私は同じバレーボール部にいて、当時の地獄のような練習に耐えた仲間だったので」

その部活は、男性コーチがパワハラを繰り返していた。背が高いという理由で、部活に入れられた淳子さんは、辞めることもできず、活動を続ける。

「当時のことを思い出すと、今でも吐き気がします。だから私はスポーツ観戦を一切しません。この選手の上にはコーチがいて、選手が当時の私と似たような経験をしているかと思うと、辛くて胸がギュッとなるんです」

アスリートは、その競技に適性があり打ち込んでいる。一方、淳子さんはいやいや取り組んでいる。両者は次元が違うが、それを同列上に語るほど、当時の部活の訓練はひどかったのだろう。淳子さんは当然、東京2020オリンピックの放送を見ないようにしていた。しかし、絵美さんと再会した夜、テレビを付けたら、女子サッカーのミーガン・ラピノー選手と女子バスケットボールのスー・バード選手が揃ってメダルを獲得したニュースがやっていた。

「バード選手の試合後、ラピノー選手が祝福のキスを贈る場面が映し出されました。それはとても美しく、ドラマのワンシーンのよう。絵美と私はキスこそしていませんが、2人の姿に青春が重なりました。私の初恋の相手は絵美だったのかもしれない」

そして、絵美さんとの友情の日々が再び始まった。

【自宅でランチ会、作品や生活の写真を送られても……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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