シスターフッド(女性同士の連帯)を描いた映画やマンガがヒットし、女性同士の友情が注目されている。しかし、現実は、うまくは行かない。これは女性の友情の詳細をライター・沢木文が取材し、紹介する連載だ。
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最近、「カサンドラ症候群」という言葉をよく見かける。これは、発達障害傾向があるパートナーと意志の疎通が円滑にできないことに悩み、不安や抑うつなど、心身が不調になることを指している。
ちなみにカサンドラとは、ギリシャ神話に出てくる王女の名前だ。彼女は予知能力があったが、アポロン神に呪いをかけられ、自分の予言を誰にも信じてもらえなくなる。その結果、悲劇の予言者となってしまうのだ。
「同居している友人が、おそらく発達障害傾向があるかもしれない。パートナーだけでなく、友達でもカサンドラ症候群になることもあるのではないでしょうか」と話すのは、愛知県に住む麻紀さん(62歳)だ。
麻紀さんは、定年退職後、地元に戻るが相次いで親を亡くす。そこで、老後資金も考えて下宿機能がある家を建てる。そこに入居したのが、高校時代の親友・良子さん(62歳)だ。
【これまでの経緯は前編で】
クラスの中心で、友人であることが誇らしかった
良子さんは、容姿も美しく、明るくて楽しい人だという。高校時代はクラスの中心で、高校に校則の変更を提案したり、文化祭実行委員長をやったりして、友人であることが誇らしかったという。
「頭もよく、家も金持ちで有名な女子大に進学したんです。商社マンと結婚し離婚した後に、不動産会社に勤務し、同僚と結婚して不妊治療をしているところまでは知っていました。それから20年ぶりに再会し、一緒に住み始め、良子の話を聞くと波乱万丈そのものだったんです」
良子さんは、好きなことに集中すると、驚異的なエネルギーでのめり込んでしまう。目標を達成するために、わき目もふらない。
「最初は男を踏み台にして、のし上がる良子の話が痛快でした。元夫さんに帯同して、ニューヨーク生活もしていた良子の話は面白く、私の部屋で夕飯を食べるルーティンが出来上がっていったのです。しかし、何度も同じ話を繰り返してきたり、一方的に話されて私の話を聞いてくれなかったり、突然別の話が始まるなど、“おかしいな”と思うところが増えてきたんです」
高校時代も似たようなことはあったという。
「当時は若かったから、それも魅力だと思っていたんですけれど、大人になっても一向に変わらない良子と一緒にいるとしんどい。こっちも老いて共感してくれる人が欲しい。それなのに話しかけても別の話をされたり、話題を変えられたりすると、自分が良子の目の前にいないような気持ちになってしまいます」
心が疲れた麻紀さんは、絵本を読み始めたという。絵本は哲学的な内容も多く、心にしみ込んでくるのだ。
「良子は離婚前に、ボランティアで絵本の読み聞かせの活動をしていたようで、私が読んでいる本を見つけては、“絵本作家の〇〇さんの本だ。私、この人を公会堂に呼んで講演してもらい、満席にしたのよ”などとかぶせてくるんです」
大切にしている絵本を自分のもののように手に取り、片っ端からページをめくる。そして、唾を飛ばしながら作品について熱く語る。そして、スマホの画面を見せてくる。見知らぬオジサンと良子さんが笑顔で写っていた。そして、「この作家さん、知ってる? え? 知らないの? 有名な人だよ。麻紀はまだまだだな」などと楽しそうにかぶせてくる。心の救いだった絵本に興味が持てなくなり、古本屋さんに売った。
「良子は絵本がなくなったことさえも気づかないんです。プライバシーは別とはいえ、半分一緒に暮らしていると、なぜ良子が2回も離婚をしたのかがわかってきました。一緒にいると疲れるんです。それに、近所の人にグチを言っても、“あの人、いつも元気いっぱいで明るくていいよね。一緒に住んでいると楽しいでしょう”と言われてしまうんです」
まさに、カサンドラだ。誰からも予言……いや、良子さんの言動による苦しみを信じてもらえず、心だけは疲弊していく。
【こんなことなら、1人がよかった……次のページに続きます】