取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
開業歯科医の妻で、専業主婦歴35年の利恵さん(62歳)は、10年来の女友達……元銀座のママ・杏奈さん、美容関連会社の女性経営者・百合さんとの関係に悩んでいる。
【これまでの経緯は前編で】
湯水のように使えば、お金はなくなる
しかし、コロナ禍で状況は変わった。夫が経営する歯科医院の業績がガタ落ちになったのだ。
「空調設備は整えなくてはいけないし、患者さんは来ないし、地元の小中学校での歯科検診がなくなる。主人は義歯についての講演活動もしていたのですが、その謝礼がなくなった。その謝礼が月に50~100万円くらいあり、それが私の生活費になっていたんです。お金はずっと入って来るものだと思っていたので、コロナで現実を突きつけられた」
夫と利恵さんの暮らしぶりは、お金を湯水のように使っていたとも言える。夫は不動産投資とスポーツカーが好きで、定期的に買い替えていた。
「クルマのディーラーに行って、お抱えの営業担当にすすめられるままに新車を買っていました。愛人もいましたしね。インバウンドを当て込んで、九州の観光地でホテルの投資もしていたようです。他にもスタッフさんと旅行をしたり、年末にはレストランを貸し切って会食をしたりしていました」
歯科医院の経理は、夫の実の妹がやっていた。
「身内にしかお金を任せられないと言うので、主人の妹に経理をさせていたんです。ところが、コロナの時に時間ができて帳簿周りのいろんな整理をしたら、かなりの不正をしていたことがわかった。いろんなことは重なるんですね」
それが表に出たのは、ステイホーム時の終活。
「主人は数年のうちに70歳になる。私も60代になり、子供のために終活をしようと、財産と呼ばれるものの棚卸しをしたんです。すると出るわ出るわ……赤字になったまま塩漬けになっている株、クルマのローンなどなど。終活を2人で行ったから隠しようがない。主人は開き直っていましたけどね。そのときに、ウチに思ったよりお金がないことがわかったんです。夫が使った金額はすさまじく、私が子供たちにかけた教育費、杏奈さんと百合さんと遊んだお金、買い物費用などがかすむくらいだったんです。振り返ると、何もかもが裏目に出ている。バブルの時に購入し、売っても半額にさえならない郊外の寒々しい家で、終活するってホントに惨めですよ」
妹が横領したお金は億単位、愛人に渡していたお金も総額で数千万円。クリニックを続けるにも、家賃はかかるし、コロナ対応も必要になる。後進に権利譲渡することを決めた。
【夫は歯科医を引退し、堅実な生活に舵を切る……次のページに続きます】