取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970年代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

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新卒時、大手メーカーに就職しなかった後悔

西東京市に住む、克夫さん(仮名・72歳)と綾子さん(仮名・70歳)は、娘(40歳)と一緒に暮らし始めて3年になる。娘はいろいろなことがあって、今は自宅療養中だ。夫妻にお話を伺ったが、メインで話したのは母である綾子さんだ。

夫婦の主な収入は年金だ。克夫さんは住宅メーカーに定年まで勤務しており、それなりの貯えがあるというが、娘の面倒……というか、介護をすることは、想像もしていなかった。「お姉ちゃんの下に、2歳年下の息子がいるんだけれど、この子が“おっとりポー”っとしていてね。まあ美人で気が強いお姉ちゃんの陰に隠れていたわね。“私はあなたたちとは違う”という感じ。私がお姉ちゃんに“あっくん(弟)と男女逆だったらよかったのにね”と言うと、“ふふん”と得意げに笑う。その顔がキレイでね。今は見る影もないですけど」

娘は当然の如く中学受験をして、難関大学付属の中学校に進学。しかし、高校は自分の道を進みたいと、別の学校に進学した。

「中学校は、ブランドで選んじゃったから、娘には合わなかったみたい。高校もそれなりに名門で、推薦で名門私立大学に進学。近所のスーパーですれ違った人から、“おたくのお嬢さん、あの大学行ったんですって!? 優秀ねえ”とうらやましがられていました」

娘が光なら、息子は影。息子は地味に勉強を続け、高校からは理系の高専(高等専門学校)に進学。現在は38歳だが、地方の女性と結婚し、その家で“マスオさん”をしながら、3人の子供の父親になっているという。

光と影が逆転したのは、娘の就職が全敗したことだった。父の克夫さんは語る。

「100社にエントリーシートを送って、全て書類で落とされた。志望していたマスコミは全滅。広告や印刷会社も落とされた。教授のコネで内定は出たようだけれど、そこは大手だけれど、地味な食品関連会社。私はその会社で“一年頑張れ”と言ったのに、内定を蹴った。そして、アルバイトをしながら就職浪人をしていた」

今から18年前、女子学生にとって、男女差別がある中での就職活動だった。セクハラもあれば、パワハラまがいの圧迫面接も横行していた。内定を蹴ったのは、激しい圧迫面接と、女性蔑視の言動が受け入れられなかったからだという。

「あのとき、なぜあの会社に行かなかったのか、という後悔は、父親の私の方が強い」

就職浪人中、大手広告代理店でアルバイトを始めた。次ページに続きます】

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