取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

大学院まで進学させることは、「金持ちの家の道楽」ではないか

東京都八王子市に住む秋元奈津江さん(仮名・70歳)は、35歳の娘がコロナ禍で失業し、2度目の緊急事態宣言後に、実家に戻ってきた。夫婦水入らずの自由な生活と、切り詰めながらも、年金と臨時収入があったときに、ときどき贅沢をする生活がなくなってしまったという。

「娘のせいだけでなく、コロナのせい。私たち夫婦での貯金額は1千万円くらいなので、やはり老後資金は心もとない。“人生100年時代”だし、まだまだ働ける。今年の6月までは、3歳年上の夫は定年まで勤めあげた会社の子会社でアドバイザーみたいな仕事をしていたし、私も3月末まで都内の社員食堂で調理師として週3で働いていたんです。でもコロナでしょ? 夫婦で雇い止めになってしまい、今の収入は年金だけ。老後資金には手を付けたくないし、どうしたものかと」

奈津江さんは高卒、夫は高専卒の専門職。現在の自宅は、夫が親から相続したもので、築30年の木造。一男一女を授かり、2人とも私立大学を卒業させた。理工学部卒の長男は北陸地方の大企業に勤務している。そして、今回自宅に帰ってきた娘は、文系大学の法学部を卒業し、さらには大学院まで進んでいる。

「子供のころから勉強が好きだったから、そりゃ親は応援しますよ。夫は高専卒でだいぶ悔しい思いをしたそうなので、子供達の進学を喜ぶ気持ちも強かった。私たちの両親からも娘の学費は援助してもらいました」

娘が大学院に進学するとき、長男から「文系で院卒って、就職先が限られてしまうから、進学しない方がいいんじゃないか」と言われたという。院卒は社会に出る年齢と給料が高くなるので、企業が敬遠するからだ。

「それでもいいと進んだのだけれど、いざ就職活動という段階になって、就職先はなかった。院卒は“金持ちの道楽”として扱われているのではないかと感じたんですよね」

娘はその後、非正規の仕事を転々としていたという。

「国会議員事務所職員、NPO法人、研究施設、シンクタンク……肩書だけ見ると、“頭よさそう”(笑)。近所の人に、“お嬢さん、何しているの?”と聞かれるとうれしかったですね。“議員事務所で政策を立てる仕事をしています”とか言えたんですから(笑)。」

しかし、そのいずれも非正規だったり、正規職員になっても、手取りが非正規以下でこき使われる待遇ばかりだったという。

「25歳のときから一人暮らしをしているのだけれど、世田谷のはずれにある、びっくりするほど狭いワンルームでね。家賃は6万円だったと思う。今回のコロナで、それすら払えなくなって、実家に戻ってきたんです」

【娘はうつ病になっていた……次ページに続きます】

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