年末が近づくと、会社勤めの方であれば会社から年末調整に関する書類の提出を求められるかと思います。扶養親族の所得を調べたり、生命保険の控除証明書の提出をするなど、例年お決まりの行事と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

基本的に年末調整だけ受けていれば、個人の税金の計算に関しては何もする必要はありません。しかし、給与以外の所得や医療費がある方は、確定申告が必要になります。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、年末調整と確定申告との違いや流れについてご紹介したいと思います。

目次
年末調整とは?
年末調整と確定申告の違いとは?
年末調整の対象になる人とは?
年末調整の流れは?
まとめ

年末調整とは?

毎月の給与の支給に応じて所得税が源泉徴収されています。この源泉徴収されている金額は、国が定めた基準により支給金額に応じて徴収する金額が変動します。

源泉徴収をしている時点では、あくまで税額の概算計上をしているに過ぎません。扶養親族の控除や生命保険、地震保険など、所得から控除されるものを適正に計算して、それまでに徴収した税額との過不足額を求め、その差額を徴収又は還付し精算することが必要です。この精算する手続きを「年末調整」と呼んでいます。

会社にお勤めの方であれば、年末調整の手続きは会社がやってくれるでしょう。従業員に給与を支給している場合、その雇い主は年末調整をする義務があります。正社員やアルバイト問わず、給与の支払いを受けていれば、等しく手続きを受けることになります。

年末調整と確定申告の違いとは?

年末調整と確定申告は、いずれの手続きも個人の1年間分の所得税の計算を行っている点では同じです。しかし下記の場合に該当すると、年末調整では手続きができず、確定申告によって所得税を計算しなければいけません。

確定申告が必要な場合

1.1年間の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える方
2.2か所以上から給与の支払を受けている方で、他の給与の支払者に扶養控除等(異動)申告書を提出している方
3.ふるさと納税や医療費控除の適用を受ける方、住宅取得控除(ローン控除)の適用初年度の方

ふるさと納税や医療費控除、ローン控除などは、確定申告をしなければ、適用できないことはご存じかもしれません(※ふるさと納税は、ワンストップ特例制度を申請しない場合)。しかし、その他にも給与所得が多い方や、正社員とアルバイトのように、2か所以上で勤務先を掛け持ちしている方も、年末調整は主として働いている1か所でしか計算することができません。

そのため、それ以外の収入がある方は、全ての収入を合算して確定申告をする必要があるのです。

年末調整の対象になる人とは?

それでは、年末調整だけで所得税の計算が済んでしまう方は、どのような条件なのでしょうか。下記の条件のいずれかに合致する方は、会社側の義務として年末調整を実施してくれるため、個人で何かの手続きをすることは不要です。

とりわけ、年の途中でお亡くなりになった方や、非居住者になった方は、1月からその時点までの所得を計算して、年末調整をすることになります。

1.1年を通じてその会社に勤務している方

2.年の中途で就職し、年末まで勤務している方

3.年の中途で退職した人のうち、次の方
(1)死亡により退職した方
(2)著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる方(3)12月中に支給時期の到来する給与の支払いを受けた後に退職した方
(4)パートタイマーとして働いている方などが退職した場合で、本年中に支払いを受ける給与の総額が103万円以下である方

4.年の中途で海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者(※)となった方

(※)非居住者とは、国内に住所も1年以上の居所も有しない人のこと。

年末調整の流れは?

年末調整は、本来お勤め先の会社がやるべき手続きです。どのような流れで進んでいくのかご説明いたします。

年末調整は以下の流れで行います。

1.資料回収の準備
2.年末調整計算
3.源泉徴収票の作成
4.還付金もしくは徴収金の精算
5.法定調書合計表の作成

1.資料回収の準備

まずは従業員の方に、下記資料を配布したうえで必要事項に記入してもらい、生命保険や地震保険などの控除証明書と一緒に回収します。

・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
・給与所得者の保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書には、扶養している家族の方や、その方々の所得などを記入。給与所得者の保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書には、加入している生命保険や地震保険の種類や控除金額を記入してもらいます。それらの内容が、控除証明書と間違いがないかチェックが必要です。

2.年末調整計算

次に、下記の(1)と(2)を計算して、その差額を算出します。その差額が年末調整の還付金もしくは、徴収金として従業員に精算することになります。

(1)毎月の給与計算で徴収されている源泉徴収額
(2)1年間の給与支給額をもとに、各種控除を適用したうえで、所得税率を乗じた所得税額

(2)の所得税額を計算する場合は、給与から天引きされている社会保険や、従業員から提出された生命保険や地震保険の控除を適用します。そのうえで、正しい税額を計算して、(1)の徴収額との差額を計算します。

また、住宅借入金等特別控除(ローン控除)を受ける従業員がいる場合には、住宅を取得するための借入金の「年末残高等証明書」と「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」を提出してもらい控除額を確認しなければいけません。

3.還付金もしくは徴収金の精算

上記の計算で還付金や徴収金が算出できたら、その金額を従業員の年末の給与で精算をします。

4.源泉徴収票、源泉徴収簿の作成

そして、全ての計算結果を反映した源泉徴収票を作成して、従業員に交付するとともに、年末調整の結果を反映した源泉徴収簿を会社で保管します。

5.法定調書合計表の作成

最後に、勤め先の会社から翌年の1月31日までに、下記の書類を提出します。

(1)給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
(2)給与支払報告書、総括表

(1)は税務署に提出する書類で、その会社から支給した給与や所得税の金額などを記載したものです。社員の源泉徴収票を添付して提出します。

また(2)は、それぞれの従業員の住所の所在する市区町村ごとにまとめて提出します。

まとめ

年末調整の手続きは、基本的に勤め先の会社がやってくれます。そのため総務や経理の方でないと、その内容や流れまでは、あまり馴染みがないかもしれません。確定申告はふるさと納税(※ワンストップ特例制度を申請しない場合)や医療費控除、ローン控除(※初年度)を受けるためには必須の手続きです。そのような控除がある方は、期限ギリギリにならないためにも、余裕をもって準備をしていただきたいと思います。 

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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