文・晏生莉衣

新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン接種が義務化されている海外の大学に、この秋から9か月以上の留学を予定している人が、大学拠点の接種会場で接種を受けられるようになるという発表が、文部科学省からありました。渡航前にワクチン接種ができる予定が立たない、間に合わないという理由から、せっかく手にした貴重な留学の機会を逃してしまうことのないようにするための対応で、接種を終えた人には文部科学大臣名で、英語の接種証明書が発行されるということです。

留学を予定されて渡航が迫っているという方には朗報ですが、海外留学事情にあまりくわしくなければ、「ワクチン接種が義務なんて、そんな大学があるの?」という素朴な疑問が生まれるかもしれません。日本では、ワクチンを接種する、接種しないという選択は個人の自由で、学生に接種が強制されるものではありませんので、そうした疑問が出るのは当然ですが、人気の高い留学先のアメリカを例に取ると、COVID-19の発生以前から、全米のほとんどの大学で、留学生だけでなく学生全般について、さまざまな感染症に関する免疫や予防接種の証明書の提出が義務づけられています。

これは、アメリカではすべての州で、入学に際して必要な予防接種が州法で定められているためで、その規則と大学独自のポリシーによってどの予防接種の記録が必要となるかが違ってきます。

ごく一般的に求められるのは、
・はしか(Measles)
・おたふく風邪(Mumps)
・風疹(Rubella)
についての記録の提出です。それぞれの頭文字を取ってMMRと呼ばれ、予防接種を受けた年月日や、これらの病気にかかったことがある場合はその記録、あるいは抗体があることを証明する検査結果のいずれかを医療機関から発行してもらい、大学に提出しなければなりません。これらの記録が提出できない場合は、ワクチン接種をして証明書を発行してもらい、大学に提出する必要があります。

MMRに加えてよく求められるのが、
・水痘(Varicella)(水ぼうそう:Chickenpox)
・髄膜炎(Meningitis)(髄膜炎菌髄膜炎:Meningococcal Meningitis)
・B型肝炎(Hepatitis B)
・結核(Tuberculosis: TB)
についての証明です。結核はツベルクリン反応の問診票への回答や反応検査が求められます。

大学の所在地となる州の規定によって義務となる予防接種はかなり異なり、マサチューセッツ州にあるハーヴァード大学では、MMR、B型肝炎、水ぼうそう、破傷風(Tetanus)、ジフテリア(Diphtheria)、百日咳(Pertussis)3種混合ワクチン(Tdap)、髄膜炎ワクチンに関する接種証明が必要とされ、さらに、すべての学生に毎年インフルエンザの予防接種(flu vaccine)が義務づけられています。同じ東海岸でも、ニューヨーク州のコロンビア大学は比較的シンプルで、MMRに加えて髄膜炎ワクチンの接種証明と、季節性インフルエンザ予防接種が必要です。西海岸に点在するカリフォルニア大学ではMMR、水ぼうそう、3種混合ワクチン(Tdap)、髄膜炎ワクチンの接種証明と、ツベルクリン反応検査が必要となっています。中西部イリノイ州にあるシカゴ大学では、MMR、B型肝炎、水ぼうそう、3種混合ワクチン(Tdap)、髄膜炎ワクチンの接種証明と、ツベルクリン反応検査結果の提出が求められています。

このように、大学によって記録の提出が義務づけられている感染症に違いはあるものの、アメリカの大学では入学に際してなんらかの予防接種証明書の提出が求められるというのを、常識として知っておくとよいでしょう。健康上、宗教上などの理由で予防接種を受けていなくても例外的に認められることもありますが、この場合も免除の申請書の提出が必要で、免除が認められるかは大学の判断によります。

日本の学生にとって、留学は、海外で学ぶことを通していろいろな目標を実現するために、時間をかけて努力を重ね、ようやくかなえた人生における大切な機会です。しかし、こうした予防接種記録をきちんと提出しないと、海の向こうの留学先の大学に着いてから、いざ授業の履修登録をしようとしても認められない、キャンパスの校舎や施設に出入りができなくなるといったトラブルに見舞われてしまうことになりかねません。そんなことにならないためにも早めに必要な予防接種を受ける必要があります。また、幼児期に接種を受けた母子手帳の記録がある場合や、日本で予防接種を受けたという場合でも、英語での証明書を用意しなければならないので、留学前にかなりの手間や費用がかかってきます。

そうしたことを考えると、今回、文科省の方針で、COVID-19についてはワクチン接種を無料で受けられる上、大臣名で英語の証明書まで作成してもらえるというのは、かなり、いたれりつくせりといった対応です。COVID-19のワクチン接種は、これもまた全米のほとんどの大学で義務化されていますから、文科省の条件に該当する留学予定者にとっては、予防接種証明書の提出の壁がひとつクリアできることにもなります。気になるのはワクチン供給量との関係で大学を拠点とする接種が進まなくなる可能性があることですが、希望者がスムーズにワクチン接種を受けて、証明書を手に、海外留学の夢に向かってより安全に前進できるといいですね。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。

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