夫は謝罪、女友達は悪びれもしない

日曜日の夜に帰宅すると、夫はリビングにいた。「お義母さん元気だった?」などと話しかけてきた。

「そこで“美恵さんとずいぶん、楽しそうだったわね”と言ってやったんです。すると、主人はギョッとした顔をして、“どうして知っている?”と。主人は驚いたときに、声と手が震えるのですが、すぐにわかりました」

そこで桂子さんは夫に美恵さんとの関係について問いただした。すると、3年前から男女の関係であることをあっさり認め「申し訳ない」と謝罪した。

「夫57歳、美恵さん61歳のアラカン(アラウンド還暦)と言われる年齢から、男女の関係を持つなんて、気持ち悪いと思いました。離婚という大それたこともできないし、そのつもりもない。でも、“なかったこと”にもできない。気持ちの整理がつかないので、結局、3人で話し合うことになったのです」

自宅に美恵さんを呼び出したら、始終微笑んでいたという。桂子さんは密かに「謝られたり、泣かれたりしたら嫌だな」と思っていた。

美恵さんが堂々としているからホッとしたと同時に、「どうして平気でいられるのか」とも思った。そこで2人のなれそめを聞いたら、美恵さんは「桂子さんはよく、私と彼(夫のこと)を似てるって言っていたでしょ? だからお友達になりたいと思ってしまったの」と答えたという。

夫と友人の不倫を聞いても、美恵さんに対する嫉妬心や憎しみは湧かなかった。それよりも、美恵さんと深い仲になった夫に対して、羨望の気持ちもあったという。

「娘は“スルーしなよ”と言うのですが、私は悔しいし悲しい。どちらかに嫉妬するというよりも、仲間外れにされたような悲しさがありました」

とはいえ、夫にちょっかいを出された悔しさ、自尊心が損なわれた感じもあった。夫は雇用延長になり、定年退職後も変わらず出勤している。美恵さんとデートをしているのではないかという余計な邪推もしてしまう。

「満を持して、美恵さんと2人で会ったときに、胸の中を打ち明けると、“私と彼とは相性がいいの。それに、男性は前立腺肥大の予防になるみたいよ。私と彼との関係は、あなたのためでもあるのよ”と言ってきたんです」

つまり、美恵さんから見れば、桂子さんの夫は体のいい性のパートナーにすぎない。そして、定期的に男女の交渉を持つことで、桂子さんの夫の健康を維持するための手伝いをしてあげているということなのだ。

それを聞いて、桂子さんはさらに困惑してしまったという。

「謝られるのは嫌だと思っていましたが、堂々とされるのも悲しくなる。その上に、恩を売られるとまでは思わなかったんです。あとは、私の人を見る目のなさにも自信を無くしました」

離婚するわけにもいかず、引っ越すわけにもいかない。自分だけ実家に帰ろうかとも思ったけれど、地元で何十年間も培ってきた人間関係もある。

* * *

桂子さんの夫は結婚するときは、オクテで真面目な青年だったが、この30年以上の歳月で、全く変わってしまった。愛情も人の気持ちも移ろい変わるものなのだ。
桂子さんに起こった変化は、受け入れればストレスになり、受け入れなければこれまでの人間関係の断絶につながる。
人生の安定の先にあった、思わぬ落とし穴……これに対処するためには、どの道を選べばいいのだろうか。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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