取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

「同期入社した仲間で、30年の親友が、変わってしまった」とため息をつくのは、真美さん(55歳)だ。親友の玲子さん(55歳)とは、金融関連会社の同期入社仲間。結婚してからも勤務を続ける仲間で、支え合って仕事を続けてきた。

【これまでの経緯は前編で】

私の母はゴルフのコーチと駆け落ちをした

お互いの家も行き来し、それぞれの夫の人物像もなんとなく把握していた。

「私の主人は仕事が好きで、自由にさせていれば何の文句も言わない。何を作っても“おいしい”と食べてくれる。家事も育児も一切やらないし、張り合いもないけれど、家がどれだけ汚くても気にしない。若い頃は張り合いがないと思っていたけれど、今は最高の主人だと思います。玲子さんのご主人は、名家の出身で華やか。玲子から“主人が不倫している”と相談を受けたこともありました。でも、男の浮気は女性と付き合うだけのお金があり、モテる証です。でも、妻は絶対に浮気はしてはダメ。それは家族を不幸にする」

真美さんは男性不倫には寛容だが、女性にはかなり厳しい。

「それは私が中学2年生のとき、母が半年ほど失踪したからです。当時の私は反抗期の真っ盛りで、失踪の前日に母と大喧嘩をした。だから母が不在の間は自分を責め続けました。父に母の行き先を聞いても“知らない。でも死んでない”とだけ言う。小学生の弟は“お姉ちゃんのせいだ”と泣き出すし、母がいないさみしさで甘えてくるし、家事の負担も大きかった。それよりも、母親に捨てられたという心の傷は深かった。あのときが人生でいちばんつらかったかもしれません」

母不在のさみしさに慣れた半年後、母が何事もなかったかのように帰って来た。

「学校から帰ってきたら、“お帰り”と何もないように、台所でカレーを作っているんです。あのときは幻かと思うと同時に、嬉しくてワンワン泣きました。先に帰った弟はリビングの片隅で泣き疲れて寝ていましたからね」

当時40歳の母は、父の勧めで習い始めたゴルフのコーチと男女の仲になり、駆け落ちをしていたのだ。

「父が私の学費のために貯めて置いた500万円を引き出して、半年間遊んでいたそうです。金の切れ目が縁の切れ目で2人は別れた。父は母がいないとどうにもならないから、不問に付して生活を続けたみたいです。今、2人は80代なのですが、とても仲がいいです。それを見るのも腹立たしい。あれから私は母とは距離を置いています」

多感な時期に母の不倫を経験し、真美さんは母親の立場の人の浮気に対しては厳しく接するようになっていたのだ。

「だから10年ほど前から、親友の玲子が男の話をちょいちょいするようになったことが不快でした。そんな空気を察して、玲子も私には恋愛の話はしないようにしていたみたいですけどね」

【「バーや飲み屋でひっかけた男と関係を持つの」……。次のページに続きます】

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