取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
「平凡な私に、こんなドラマみたいなことがあるなんて」と落胆している桂子さん(61歳)。15年来のママ友・美恵さん(64歳)と、桂子さんの夫(60歳)の不適切な関係について悩んでいる。
桂子さんと美恵さんは、双方の子供が幼稚園時代から面識はあった。本格的に仲良くなったのは、娘が中学生のときに不登校になって以降だという。
【これまでの経緯は前編で】
話を聞くのが異常に上手な女友達
美恵さんはたびたび桂子さんの家に来ていた。あるとき、桂子さんは、自分が一方的に話していることに気が付く。
「美恵さんは異常に人の話を聞くのが上手いんです。全身から“あなたの話を聞いてあげる”というオーラが出ている。それでこの15年間の付き合いの中で、ベラベラといろんなことを話してしまったんです」
気心が知れてきたのは、お互いの娘が成人式の年だった。それまでにも夫が大手企業に勤務していること、恋愛結婚をしたことから仕事の内容、夫や義実家への不満は繰り返し話していたが、美恵さんと親しくしてから5年目に、桂子さんは「私と主人はとっくに男女の関係が終わっているのよ」と夫婦の関係についてまでを語ってしまった。
「何十年も同じベッドで寝ていないこと、夫は研究にしか興味がなく、淡泊な私を放置していることなども話してしまったんです。すると、いつもは何も言わずに話を聞いてくれる美恵さんが“それっておかしいよ。絶対他に女がいるって”とあけすけに言ったことが気になっていました」
それから、10年近くの歳月が流れ、桂子さんと美恵さんは子供という共通言語がなくなっても、変わらずに近所の茶飲み友達として仲良くしていた。
そんなある日、桂子さんは84歳の母親と信州安曇野へと旅行をした。例年、熱海に行くのだが、直前になって目的地を信州に変更した。
「母が行きたいと言っていた宿のキャンセルが出たんです。それで、行き先を変えて、母と新宿駅の喫茶店で待ち合わせることに。私は早く着いてしまったので、喫茶店でボーッと外を見ていたら、私の目の前を美恵さんと主人が腕を組んで歩いていたんです」
慌てた桂子さんは「美恵さん!」と外へと飛び出した。明らかに反応したのに、無視して歩いて行ってしまった。そうこうするうちに母がやって来た。
「母に言うと心配するから気づかれないようにはしていましたが、1泊2日の間、悶々としたまま旅行をしていたんです」
【美恵さんとは連絡がつかない……次のページに続きます】