文/柿川鮎子

緊急事態宣言が解除され、街は活気を取り戻し始めました。とはいえ、新型コロナウイルスは重症化する激しい呼吸器病を引き起こす恐ろしい病気で、油断はできませんね。

今回はペットの呼吸について、ひびき動物病院・院長岡田響先生に聞きました。岡田先生によると、飼い主さんから呼吸に関するこんな質問を受けるそうです。

心臓病や呼吸器病の可能性もある

『うちの子がいつもよりハアハアしているのは、今日は気温が高くて暑いから?』
『今はもう暑くはないのに、ハアハアしているのはどうして?』
『今日のうちの子は何だか食欲がないみたい。ハアハアはしてないけれど、よくみると息づかいが荒いみたい。どこか具合が悪いのでしょうか?』
『少し前から、かーっかーっオェーとか、たまにやっていて、吐きたそうにも見えるけれど、ごはんはよく食べるんです。でも、ちょっと息づかいが早いみたい。何かあるのかしら?』

心当たりのある飼い主さんはいませんか?
こんな症状や疑問をもった場合は、緊急性のある心臓病や呼吸器病かもしれません。一見するとそんなに具合が悪いわけではなさそうなのに、とても心配になりますね。

岡田先生によると「こういう疑問を感じた場合、特に持病のある子の場合は、要注意信号の可能性が高くなります」とのこと。呼吸の異常に心臓病などの生命の危機が関わっているとなれば、飼い主としては気をつけるべき点を知っておく必要があります。

ペットの呼吸で気を付ける2つのポイント

1.1分間の呼吸の数(呼吸数)

「まずは呼吸の異常が疑われるのか? を考えて観察してみてください。おうちの中では睡眠時などの安静時呼吸数が目安になります。放熱のための呼吸数増加や運動後、興奮時のハアハアしている時の回数はあてになりません。おとなしくなった時や、寝ている時の安静時の呼吸の回数です。

犬猫で若干差がありますが、正常な回数はおおよそ25回以下です。心臓病の場合、1分間で30回を超えると治療が必要な可能性が一気にあがり、40回を超えると入院の可能性が高くなります。普段、持病持ちの子には、30回以上が続くようなら、すぐに来院をお願いしています。

苦しい時のサインは、首を伸ばすように上を向いてハアハアしている時、伏せの恰好はできるけれど横向きになれない時や立ち上がれない時、少し動いただけでむせるようになった、などがあります。ペットは息苦しくても苦しいとは言えないので、見た目にはわかりにくいかもしれません。そういう時、飼い主さんには『1分間の呼吸の回数を数えて、教えてください』とお願いすることがあります」

2.症状が出る時と症状の程度

「ペットの呼吸器系の異常はいつ、どのように出ているか、も重要です。ハアハアする時が興奮した時や散歩で走った時、激しい運動の後など、特定のシーンで出ているかを、飼い主さんが注意して見て欲しいです。こうしたシーンで舌が紫になるなど、異常が見られる場合は、すぐにかかりつけの動物病院に相談して欲しいです。

特に犬は呼吸によって体温を下げる仕組みもあるために、呼吸の異常は体温異常につながりやすく、呼吸の異常からの熱中症を合併しやすいです。体の熱を下げるために呼吸が早くなっていることもあります。そのため体温上昇を防ぐ、または改善するためにも、粗い呼吸、早い呼吸はなるべく短時間のうちに解決しておく必要があります。フレンチブルドッグやパグ、シーズーなど、鼻の短い犬種は特にこの点を注意してください」

呼吸器異常を引き起こす病気

「よく知られる呼吸器の異常も、幼齢期はいろいろな感染症、中高年は気管虚脱、心臓病、鼻の短い種類の子は短頭種呼吸器症候群、その他誤嚥性肺炎や肺がんや進行がんなどありますが、それ以外にも様々なケースがあります。

これらの病気の症状として、最初に文頭で飼い主さんから来る質問のような状態がみられたりします。暑くないのにハアハアしていたりするのですが、速い息づかいのせいで時間がたつと体温は上昇し、冷たいところにいたりするので、外から見ただけでは暑くて体を冷やしているように見えたりします。

咳を伴う場合、カーっという吐くような咳の症状がみられることがあります。咳ではなく、吐き気と認識されてしまうことも少なくありません。『先生、吐き気が止まらないの』という相談は実は咳が続いていた、ということがあります」

見た目では判断できないケースも

「ある論文によると、犬は手術で肺を半分、切除してしまっても、少し疲れやすくなるなどの症状が出るだけで、結構、普通に生活できてしまいます。肺の4分の3がなくなり、残りは4分の1しかなくなると、生きていくのがやっとになるそうです。

逆に考えると、呼吸器が半分ぐらいダメージを受けていても、見た目にはちょっと疲れやすいだけかもしれません。したがって、見た目で呼吸の具合がちょっと悪いという時、呼吸器の機能はすでに半分くらいか、それ以下の状態である可能性もあります。呼吸器の異常の場合は、飼い主さんが見た目でわかるぐらいに症状が出た時は、もう黄色信号が赤信号に変わるタイミングとみるべきでしょう」

早期発見で苦しみをなるべく減らす

言葉を話せないペットにとって、異常を見つけられるのは飼い主さんだけです。呼吸器の異常はなかなか見つけにくく、ペットにとってはかなり辛い状況でも、なかなか気づいてもらえないケースがあると岡田先生。なるべく早めに異常を見つけるために、こんなアドバイスをいただきました。

「ヒトの新型コロナウイルスは、呼吸器の病気が進行していても初期は症状がなかなかでません。症状が出るころには血中酸素飽和濃度が下がっていて、一気に重症化する場合があるとも報道されていますね。これは、山登りなどで高度の高い、酸素の薄い場所でも過ごせてしまうように、体が低酸素にいくらか耐えられるようになっているためだと、考えられています。

おそらく犬や猫も同じで、いくらかの低酸素状態でも体は耐えているかもしれず(この状況で症状としては外見ではわからないかもしれないため)何かおかしいのかな?と思って時間がたってしまうと、一気に重症化してしまうか、またはもうすでに重症化しているかもしれません。

重症化を防ぐ前に、飼い主さんができることは、おうちで安静にしているときのうちの子の呼吸数の把握です。数えるだけなので誰でもできます。ちなみに、ヒトも、新型コロナの重症度判定の一つとして、呼吸数30回以下ということが報道されています。犬や猫も呼吸数は1分間に30回以下、というのが大事です」

これから冬に向かって乾燥した寒い日が続きます。ペットの呼吸についても定期的にチェックしていきましょう。

取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)

神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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