取材・文/柿川鮎子
毎日暑い日が続きますが、暑さはこれからが本番。犬の飼い主さんにぜひ知ってもらいたい、夏の快適生活のポイントを、高円寺動物病院 院長 宮澤志織先生に教えていただきます。
1)暑さ対策は「ワンちゃん本位」で
宮澤先生は、ズバリ、「犬は暑さに弱い動物です」と言います。
「人間に比べると体内の熱をうまく発散させることができません。熱中症は死に至る怖い病気のひとつですから、なるべく飼い主さんが暑さに気づいて、適切な対応をすることが大切です。
とはいえ、見た目からでは、犬が暑いと感じているかどうか、わかりにくいことも多いですね。汗をかかないので、口を開けてハアハアという息遣いをしているのを見てはじめて、犬が暑いと感じているのがわかります。ハアハアする前に、できるだけ犬にとって快適な室温にしてあげましょう。
あと、犬の不思議なところでもありますが、暑いはずなのになぜか窓際で太陽があたる場所を好んで座ることもあります。暑いと感じているのなら涼しい場所へ移動してくれれば良いのですが、そうしない子も時々いるので、どこにいてもワンちゃんが快適な温度にしてあげてください」
環境への配慮から、クーラーの部屋の室温を28度にすることが提唱されていますが、犬と暮らすご家庭では、それより低い温度が適していると宮澤先生は言います。
POINT1クーラーの設定温度に頼らないこと
「クーラーの設定は何度にすればよいですか? と飼い主さんに聞かれることが多いのですが、設定温度に頼ってしまうのも心配です。
クーラーの設定温度と犬のいる場所の温度が同じとは限りません。窓際で太陽のあたる場所が好きなワンちゃんのいる場所は、おそらく30度を超えてしまっているでしょう。愛犬のいる場所が25度前後になるように、エアコンを設定してください。
エアコンの設定温度は部屋の広さや、家の日当たりの良さなどによっても異なると思います。目安としては、部屋全体を人がやや涼しく感じるぐらいの室温にすること。エアコンの設定温度ではなく、ワンちゃんのいる場所を涼しくしてあげることが大切です」
犬種、年齢、肥満によって工夫を
宮澤先生によると、特に短鼻種と呼ばれる犬種(パグ・フレンチブルドック・シーズー・ボストンテリアなど)や、高齢犬、子犬、肥満犬は熱中症に注意が必要だと呼びかけています。こうした犬種のいる場所は20度前半ぐらいまで温度を下げるといいそう。
「さらにエアコンだけでなく、扇風機で空気の流れをつくったり、窓を開けて風通しの良い場所を作るなどの工夫もして欲しいですね」
また、「犬種や年齢、それぞれの個性によっても、暑さに強い子や弱い子がいます。去年は25度ぐらいで平気だったのに、今年の夏は23度でなければハアハアしてしまう子がいるかもしれません。夏の温度管理は、うちの子に合ったものにすることが大切です」と教えてくれました。
2)暑い時期の飲水と食べ物
部屋の中では飼育頭数プラス1個の水飲み場を設置するといいとのこと。「暑いからといっていつもより大量のお水を飲むときは、できるだけ早くホームドクターに相談してください。飲水量が増える病気の疑いがあるからです」と宮澤先生は愛犬の多飲には注意を呼び掛けています。
POINT2 夏の体重管理と栄養補給に注意
水を多飲することによるミネラルバランスの悪さを気にする飼い主さんには、愛犬用のドリンク剤やサプリメントなどを提案することがあるという宮澤先生。「どちらかというと、栄養で気にしてほしいのは、体重管理の方です」と言います。
「犬種や性格、飼育環境によって異なりますが、暑いと散歩の時間が短くなったり、家で運動する量が減って、体重が増えてしまう子がいます。逆に夏の暑さがストレスになる子は食べる量が減って、体重が減ってしまいます。
こうした気温による変化は、飼い主さんが一番よく理解されていると思うので、その子に合った夏の栄養補給を心掛けてあげてください。体重変化によるダイエットや栄養補給については、動物病院でも相談を受け付けているので、気軽に相談に来てほしいですね。
食事に関しては、夏にずっと下痢が続く子がいて、調べたところフードが夏の暑さで劣化していたケースがありました。夏は特に傷みやすいので、フードは暗くて温度が保てる保管場所に置きましょう」
3)夏のレジャー対策
帰省など、長時間、車に乗っているときの熱中症対策も忘れずに。宮澤先生は「車の中はエアコンが効きにくいので、愛犬が乗る前に、あらかじめエンジンで車の中の温度を下げておきましょう」と呼び掛けています。
POINT3 膝の上の抱っこはNG!
さらに、長時間の移動では、なるべくケージの中で過ごすように宮澤先生は指導しています。
「助手席の飼い主さんの膝の上で長時間、ドライブした結果、不自然な姿勢を強いられてしまい、腰を痛めた犬もいました。ケージの中の方が安全です。
さらにサービスエリアごとに設置されているドッグランなどで運動をしたり、トイレができるようにしてあげることも大切です。愛犬と車外にいる間も、できるだけ車内の温度を上げないように注意してくださいね」
POINT4 野生動物から感染する病気を予防しておこう
野生動物の尿を媒介して感染するレプトスピラは、死亡率が高い感染症です。特に水辺で感染するケースが多く、台風や大雨の後に感染者数が増える病気です。一般的な混合ワクチンでは7種混合以上でのレプトスピラ予防のワクチンが含まれています。
宮澤先生は「水遊びを含むアウトドアを楽しむときは、このレプトスピラ予防ができているかを確かめておき、もしワクチンを接種していなかったら、ホテルでお留守番をしたり、水遊びは念のためやめておく方が安全です」と注意を呼び掛けています。
また、愛犬の皮膚にダニやノミを見つけてしまったら、動物病院で処置をしてもらいましょう。特にダニを頭から取るのは難しいので、専用の器具がある動物病院の方が安全です。
以上、暑い夏を愛犬と快適に過ごすためのアドバイスを、宮澤先生に教えていただきました。人がそれぞれ異なるように、犬にもそれぞれ個性があります。うちの子の最適をさぐりながら、夏の素敵な思い出をたくさんつくりたいものですね。
高円寺動物病院byアニホック 院長・獣医師 宮澤 志織先生
取材・文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。