2019年2月に国税庁から各保険会社に対して、法人向け保険の税務上の取り扱いについて見直す発表がありました。保険業界ではこれを「バレンタインデーショック」と呼んでいます。資産性の高いものは資産計上に、そうでないものは損金扱いをする、という基本的なルールを逸脱したことが経緯だとされています。

改正により新たな損金ルールとなっていますが、税金の繰り延べとして全く活用ができなくなったわけではありません。そこで今回は、日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、個人や法人で現在でも活用できる保険についてご紹介させていただきます。

目次
保険は税金対策になる? 押さえておきたい注意点とは?
個人事業主が節税で活用したい保険とは?
法人が節税で活用したい保険とは?
まとめ

保険は税金対策になる? 押さえておきたい注意点とは?

生命保険は非常事態に備えて加入するのが一般的です。別の側面として保険に加入することで個人では年間最大12万円の所得控除を受けられ、法人では保険の契約内容によって支払った保険料をその年の損金として経費計上することが可能です。保障を備える保険本来の目的とは逸れますが、加入による税務メリットを利用することで節税保険として活用することができます。

押さえておきたいポイント

法人で加入する生命保険は、その年の損金に算入することで保険料の支払期間中は法人税が減額されます。しかし、加入したとしても、必ずしも節税になるわけではありません。それは万が一の際、保険金や解約返戻金を受け取った場合、その保険金や返戻金は法人の利益として課税されます。法人で加入する生命保険は利益の繰り延べに過ぎないため、保険金や解約返戻金などの出口対策を行っていない場合は節税対策にはなりません。

ご加入時にはこの点についてしっかり検討することが必要になります。

個人事業主が節税で活用したい保険とは?

個人事業主におすすめの保険は国民年金基金と小規模企業共済の2つがあります。

国民年金基金

こちらは会社員の方が、会社で加入している厚生年金のように国民年金に上乗せする年金です。メリットは、掛け金が全額所得控除となり節税対策として活用ができる点です。また、終身年金になっているため、亡くなるまで年金を受け取ることができます。1か月の掛け金は年齢や契約内容によって違いますが、月額上限は68,000円と決まっています。加入後に増やしたり減らしたりすることもできるため、状況にあった支払いが可能です。

※iDeCoに加入している場合は、その掛け金と合算した上での上限になります。

次にデメリットは一度加入すると、途中で任意では脱退することができない点です。加入資格が喪失した場合は、その時点まで納めた掛け金が将来年金として受け取れます。しかし、民間保険のように解約して返戻金を受け取ることはできません。

小規模企業共済

こちらは個人事業主の方が加入する退職金制度になります。メリットは国民年金基金同様に、掛け金が全額所得控除となり節税対策として活用できます。掛け金は月額1,000円から可能で上限は70,000円となり、こちらも加入後に支払いを増減させることが可能です。その他にも掛け金の納付期間に応じて貸付制度の利用も可能なため、もしもの際、迅速に事業資金を借り入れることもできます。

次にデメリットですが、小規模企業共済のデメリットは2つあります。1つ目はご加入後240か月(20年)未満で解約をされる場合は元本割れになるという点です。また、共済金納付月数が12か月未満の場合で、任意解約を行った場合は解約金を全く受け取ることができません。そのため掛捨て状態になります。節税対策で加入したとしても、早期に解約をした場合には元本割れのリスクが生じるでしょう。

2つ目は規模が大きくなると加入ができない点です。業種によって人数は違いますが、従業員数が一定以上になると加入できなくなってしまう可能性があるため注意が必要です。

法人が節税で活用したい保険とは?

法人におすすめの保険は以下の3つです。

・定期保険

・養老保険

・医療保険/がん保険

定期保険

こちらは代表者の死亡時に事業継続などの資金に備え、また勇退時期には保険を解約し退職金の原資として活用することができます。この保険のメリットは、支払った保険料の高いもので9割を超える解約返戻金を受け取ることが可能です。また、一部を経費として損金に計上できる点や、解約返戻金の範囲内で契約者貸付を受けることができます。

逆にデメリットは解約返戻率が高いほど損金にできる割合が少なくなる点と、早期解約時の解約返戻金が少ないため損をしてしまう点です。加入の際は返戻率に注意しながら検討することが必要です。

養老保険

こちらは主に従業員様向けの死亡保障と退職金の積立に活用できます。この保険のメリットは支払った保険料の半分を経費として損金に計上できることです。また、契約期間終了時には満期金が受け取れますので、その満期金を従業員様の退職金の原資として活用することもできます。

この保険のデメリットは、一定の要件を満たさなければ損金計上ができない点です。一部の社員のみや同族関係者のみを対象とした加入方法は損金計上ができません。加入の際には契約形態などの注意が必要です。

医療保険/がん保険

こちらは従業員や役員を対象に主にケガや病気に備える保険として活用することができます。この保険のメリットは、一定の要件を満たすと全額損金にすることが可能であること。また、法人で契約し保険料払込み終了後に名義変更をすることで、勇退後に個人保障として保険料の負担なく一生涯の保障を確保することもできます。

この保険のデメリットは見舞金などを支払う際に、慶弔規定など明確な指針が必要になります。役職が上がるにつれて支払う金額が高くなると思いますが、明確な指針がない場合は給与課税の可能性もでてきますので注意してください。

まとめ

今回は個人事業主と法人の節税保険についてご紹介をしました。個人では支払った保険料が事業の経費として認められるものは多くありません。また、法人では税制改正後に返戻率の高い保険商品は、損金性が低くなり従来のような恩恵を受けることが難しくなりました。そうはいってもこの「節税保険」にメリットがないわけではありません。保険としての機能を備えながら、解約までの期間中は費用として計上することで税金を減らすことが可能です。

税制改正によって現在は損金の取り扱いのルールが複雑になったため、保険を活用した節税についてはその時の損金だけで判断せず、専門家と相談しながら進めることをおすすめいたします。 

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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