コロナ禍にあって、人とコミュニケーションをとる機会は以前より格段と少なくなってきています。しかし、人は「自分のことを話したい」という欲求を持っているといいます。人と会話する機会に話をうまく聞くことができれば、コミュニケーションの質が高まり、相手との関係を良好に保つことができるでしょう。そこで、累計100万部のベストセラー『人は話し方が9割』の著者、永松茂久さんの『人は聞き方が9割』から、人とのコミュニケーションがうまくいく「聞き方」のコツをご紹介します。

文・永松茂久

魔法の傾聴は居眠りから生まれた

魔法の傾聴。言葉にすると「ランプから精が飛び出すのか?」と思ってしまいそうな、何やらすごそうなイメージですが、実はこのスキル【(1)表情、(2)うなずき、(3)姿勢、(4)笑い、(5)感嘆+称賛】は、私のどうしようもない癖から生まれました。

「魔法の傾聴」と聞くと、「難しそうだな」と真面目に考えたり、「できていないな」と反省する方もいるかもしれないので、この誕生秘話を書きます。
「あ、こんな人間でもできるんだ。それなら自分でもできるわ」
と気軽に読んでいただけたらと思います。

今から25年前、九州から上京し、大学に行かずにフラフラしていた私を、とある出版社の社長が拾ってくれました。
その出版社の名はオフィス2020。代表は緒方知行(おがたともゆき)さんと言います。出版社の代表でもありながら、ご自身が本の著者であり、執筆と同時にその会社はセミナー事業もやっていました。著者なので、私は「緒方先生」と呼んでいたので、ここでもそう書きます。

22歳、浪人したのでまだ学生だった私は、まずはバイトとして緒方先生のカバン持ちや、会社のセミナー運営の事務局のお手伝いをしていました。

2020のセミナーは、先生の人脈で、とんでもないビッグネームの社長が講演をします。しかし、当時22歳の世間知らずの私は、その価値がまったくわかっていませんでした。それに加え、講演では、経営用語やビジネスマンにしかわからない英語の言い回しが飛び交うがゆえに、その話を聞ける価値以前に、話そのものの意味がわかりません。気がつけば、いつも後ろの事務局の机で居眠りをしていました。

そしてミッションは突然に

当時は茶髪のロン毛が全盛期。私もその影響で真っ茶色のロン毛でした。バイトとはいえど、一応セミナー事務局の一員です。高校生のように思い切りうつ伏せて寝るわけにはいきません。座ったまま眠気を抑えようとすると首が右に左にカクカク動いてしまいます。真っ黒の髪のビジネスマンたちの中で、後ろの茶髪がカクカク揺れていれば、当然目立ちます。講師の方から緒方先生が嫌味を言われ、会社に帰った後、私は何度も怒られてしまいました。

そんな私に限界が来たのか、ある日、緒方先生からとんでもないミッションを提示されました。それは「一番前の中央席に座って話を聞く」というもの。嫌ならバイト代はなし。もうやるしかありません。ミッションを言い渡される時、緒方先生からいくつかの細かい指示を出されました。

「いいか、茂久。とにかく笑顔でうなずいて話を聞きなさい」
「先生、話がわからなかったらどうしたらいいですか?」
「それでもいい。とにかく笑顔とうなずきをセットで続けるように。いいかい?」
「わかりました。努力します」
「2つめは一生懸命メモを取ること」
「わからない言葉も含めてですか?」
「わからなかったらとりあえずメモをして、あとで自分で調べなさい。大切なのはメモを取る姿勢のほうだから」
「わかりました」
「そして3つめ。講師が少しでも面白いことを言ったら、周りに遠慮せず思い切り笑いなさい。そのリアクションはオーバーなくらいでいい」
「1人で笑ってもいいんですか?」
「君は周りの目は気になるかい?」
「あ、それはあまりないです。3つめだけはすぐにできそうです」

こうしてセミナーの時は、講師の真ん前の中央席で、笑顔でうなずきながらメモを取り、思い切りオーバーアクションで笑うというバイト生活が始まりました。

内容はあまりわからないながらも、言われた通りに一生懸命ミッションを遂行しました。先輩方からは
黒い頭の中で、茶髪がうなずいてるから、めちゃくちゃ目立ってるよ。居眠りの横揺れがうなずきの縦の揺れになってよかったね
と、ほめられているのか、けなされているのかよくわからないコメントをもらうようになりました。

大社長たちから引っ張りだこになった茶髪のバイト

最前列真ん中聞きのミッションを始めてまもなく、不思議な現象が起こり始めました。講師として話をする大社長のほうが、だんだん私に向かって話をするようになってきたのです。それも毎回です。

そしていつからか、緒方先生に、
「あの茶髪の彼を聴衆として派遣してくれないか? 話しやすいから」
と変なお誘いがかかることもありました。

それを緒方先生が、「うちの会社に、講演の講師たちにやたら気に入られる変わった青年がいる」といろんな社長に話すことで興味を持たれ、私は特命を受け、セミナーだけでなく、社長の取材をする緒方先生のおとも兼うなずき役として、いろんな場所に連れて行っていただけるようになりました。そのおかげで学生にもかかわらず、たくさんの社長にかわいがっていただき、数多くのすごい人とのご縁をいただくことができました。

こうした一連の体験を通して、私の頭の中には
「講演やセミナー=話を聞いて学ぶ場所」ではなく、「=うなずきまくって講師の先生と仲良くなる場所」
という、常識とはまったく違う意味づけの図式が、頭の中にできあがりました。

相手の話をうなずきながらしっかりと聞く。この誰にでもその気になればできるごくシンプルなリアクションの習慣がもたらしてくれる大きな報酬は、計り知れないものがあります。

こうして居眠りからたまたま生まれた「魔法の傾聴」。聞き方を磨くのは、話し方を磨くよりはるかに簡単で、相手に喜んでもらえるということ。そしてこの魔法の傾聴こそ、相手も自分も幸せにする最高の方法だと私は信じています。

100%好かれる聞き方のコツ

うなずく姿勢を磨くだけで、想像を超える学びや出会いがやってくる

* * *

『人は聞き方が9割』(永松茂久 著)
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永松 茂久(ながまつ・しげひさ)
株式会社人財育成JAPAN 代表取締役。大分県中津市生まれ。2001年、わずか3坪のたこ焼きの行商から商売を始め、2003年に開店したダイニング陽なた家は、口コミだけで県外から毎年1万人を集める大繁盛店になる。自身の経験をもとに体系化した「一流の人材を集めるのではなく、今いる人間を一流にする」というコンセプトのユニークな人材育成法には定評があり、全国で多くの講演、セミナーを実施。「人の在り方」を伝えるニューリーダーとして、多くの若者から圧倒的な支持を得ており、講演の累計動員数は延べ45万人にのぼる。著作業では2020年、書籍の年間累計発行部数で65万部という記録を達成し、『人は話し方が9割』の単冊売り上げで2020年ビジネス書年間ランキング1位を獲得(日販調べ)。2021年には、同じく『人は話し方が9割』が2021年書籍の年間ベストセラーランキングで総合1位(日販調べ)、ビジネス書部門でも2020年に続き、2年連続1位(日販調べ)に輝く。トーハンでも2021年ビジネス書年間ランキング1位に。著書は『人は話し方が9割』『人は聞き方が9割』『喜ばれる人になりなさい』(すばる舎)など多数あり、累計発行部数は285万部を突破している。


 

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