取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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国立大学を卒業し、財閥系の機械会社に定年まで勤務し、現在は嘱託社員として働く松本利彦さん(仮名・65歳)は、ここ10年以上、娘(30歳)のことで悩んでいる。娘は中学時代に拒食症で入院。妻は15年前に家出をしている。
【これまでの経緯は前編で】
娘は短大卒業後に、利彦さんのコネで、小さな会社に事務職として入社
「そこには10年勤務していますが、それほど給料が高いわけではない。たぶん年収にすると400万円くらいじゃないのかな。埼玉が嫌だというので、目白にある私が持っているワンルームマンションに住んでいる。ここは私が不動産投資で買った物件なんだけど、住み心地が悪くて賃貸に出しても埋まらない。娘に住まわせていても一文の得にもならないんだけれど、空き室にしておいても傷むからね。ホントは売りたいけど、娘を追い出すわけにはいかない」
娘は父親の庇護のもと、給料全額お小遣いという生活を、10年以上続けている。
「それでも足りないと言って、“お金が欲しい”とくる。私が現金を10万円ほど入れている引き出しがあるんだけれど、そこから抜いていくのは長男。娘は正面切って“お父さん、貸して”とくる」
聞いていると、娘はさほどお金がかかる生活をしているわけではない。お金がかかる生活とは、何かにハマったり、何かに対して過度に献身していたりするケースが多いが、娘には交際している人の陰すらない。
「それは、肉体改造です。コンプレックスだった容姿を、改造しているのです。言いたくないのですが、美容整形です。最初は娘が23歳のとき、2か月ほど実家に帰ってこないことがあった。その年の正月、息子夫婦とみんなで集まったときに、嫁が“あれ、マコちゃん(娘のこと)二重になったの?”って言ったんです。それを言われてから娘の顔を見ると、何かが違う」
利彦さんは、自分の顔に似ている娘の容姿を愛していた。
「それが妻のような華やかな顔になろうとしていることがわかる。私の世代からすると、親からもらった体にメスを入れるのか……という話になるのだけれど、ガリガリに痩せて、点滴を打たれていた娘を思い出すとそうも言えない。男親としては、見て見ぬふりをするしかないのか」
【「マコ(娘)はかわいいよ」と言ったら、「キモッ」と言われる。次ページに続きます】