取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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『美女と野獣』と揶揄される夫婦の娘
松本利彦さん(仮名・65歳)は、ここ10年以上、娘(30歳)のことで悩んでいる。利彦さんは、池袋まで1時間程度の、埼玉県の中でも新興住宅地に住んでいる。
「私の親世代までは、大きな農家でした。親が耕作をする姿を見てきたので、この年になると土いじりをするのが楽しくて。今の季節はアスパラガスやズッキーニが採れる。こういうのはいいものです」
利彦さんには、一男一女がいる。息子は現在32歳で、利彦さんが所有するマンションの一室に家族と住んでいる。仕事は警備員をしているという。
「大学(中堅私立大学法学部)まで出したんだけど、“地元がいい”って。通勤ラッシュに耐えられずに、地元で働く道を選んだ。私とは違いますよね」
利彦さんは国立の工業系の大学を卒業し、財閥系の機械製造会社に勤務し、定年までエンジニアとして働いた。今もその知見と人柄を慕われて嘱託として働いているという。
「息子のことは心配していない。高校の同級生と結婚して所帯を持って、孫は男の子2人。かわいいよね。女房がいれば、扱い方もわかるんだろうけれど、ジイジじゃねえ(笑)」
破顔一笑、昭和の総理大臣・田中角栄氏を思わせる風貌が、くしゃっと笑った。魅力的な笑顔だ。夫婦関係について伺うと、しばらく黙っていた。
「女房は、私が30歳、向こうが34歳の時に結婚した。当時のデキちゃった婚。私の親はカンカンで、女房に親はいなかった。出会いは池袋のスナック。そういうことがあって、息子ができて“どうしよう”と言われて入籍した」
息子は、妻に似て美しい容姿をしている。
「目がパッと大きくて、鼻がスッと通っていて、小鹿を思わせる肢体をしている。色が白くて、ダンサーをしていたから体がきびきび動いた。まあ、私の面相とは真逆だよね。女房の方が背が高い(163cm)んだから。よく『美女と野獣』って言われた。落語でも花魁と田舎大尽の話があって、田舎の醜男は笑われている。まあそんなものだと思っていた」
【5年後に生まれた娘は父親に似ていた……。次ページに続きます】