何で私ばっかりしないとあかんの?

1日2回の血糖値測定、インスリン注射、食前薬に食後薬。糖尿病はこれらの時間を厳密に守らなければならない。それに加えて糖尿病食だ。糖質とカロリーをこれも正確に計算しなければならない。料理が苦手な迫田さんは次第に負担に感じるようになった。

そのうえ、血糖値を測定するときになかなか血が出なくて、失敗ばかり。針が足りなくなって、しまいには針がなくなって、測れなくなってしまった。

「義父のためと思ってやっていたけど、もう何もしたくない。何で私ばっかりしないとあかんの? もう注射も血糖値測定もしたくない」

今思えば、プロでも失敗することがあるのに、素人が上手にやれるわけがない。そんなことに思いが至らないほど、迫田さんは追いつめられていた。

衰えていく義父――「死んだらどうしよう。インスリン注射をしないと。でも、どうしてもできない。血も出ない」。病院に駆け込んだ。“肺膿瘍”という病名を聞いて、迫田さんは逆にホッとして崩れ落ちてしまったという。

1か月の入院後、義父は生還した。

「普通、高齢者は亡くなる病気だとお医者さんに言われました。これはもう義父は長生きするだろうと確信したんです」

迫田さんは医師に訴えて、注射回数を減らしてもらい、迫田さんは持ち前の前向きさを取り戻した。

「お医者さんに受け入れてもらった安心感は大きかったですね」

次回に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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