文/鈴木拓也
青春時代が昨日のことのように思い出されるのに、気がつけば50歳。
今までは、冠婚葬祭にはもっぱら招かれる側であったが、お招きする立場になるほうが増えてくる年頃だ。
となると、ご祝儀・香典の額や服装に気をつければ大体はよかったのが、そうもいかなくなる。
ほかならぬ自分の肉親が亡くなったとき、子どもが結婚するとなったとき、うろたえながらスマホで検索するだけでは、一大事は乗り切れない。
今回は、著名なマナーコンサルタントの西出ひろ子さんの著書『知らないと恥をかく 50歳からのマナー』(ワニブックス)より、知らないではすまない弔事・慶事のマナーを一部紹介しよう。
忘れてはならない病院関係者への挨拶
かねてから療養中の身内が亡くなった。峠を越すものと思っていたせいで、万が一の場合の初動をどう進めるべきか、正直心もとない。
本書の中で西出さんは、「身内が亡くなった直後の対応」を詳細にまとめているが、臨終直後については、
1 悲しくても病院関係者に挨拶を
2 慌てずに葬儀社に連絡を入れる
3 誰が喪主になるのか家族で相談
の3つのポイントを押さえるようアドバイスしている。
「病院関係者に挨拶」は盲点かもしれない。悲しみに暮れていても、手を尽くしてくれたことへのお礼は、おろそかにはできないものだ。特に、長く入院していたとか、訪問医療を受けていた場合は、なおさら。この場合は、「葬儀後に改めて挨拶に出向き、個包装の菓子折を手渡してもいいでしょう」と、西出さん。ただし、時期の問題や病院の規則で受け取れない所もあるので、前もって確認を。
そして、葬儀社をどこにするか決めかねているなら、「病院で紹介された葬儀社に、遺体の搬送と安置だけを依頼」することはできるという。最終的に葬儀自体は、別の葬儀社に依頼することは問題ないそうで、それまで検討する時間を確保できる。検討にあたっては、「事前に複数の葬儀社をたずね、斎場の見学をし、見積もりを出してもらっておくのがベスト」だとも。
両家の顔合わせはここに注意
自分の子から結婚の意思を告げられて、具体的な事として最初にあるのが「両家の顔合わせ」だ。
現代は、男性が親を連れて女性宅へ出向くという昔ながらのしきたりにこだわらず、「ホテルやレストランに集まり、和気藹々と食事をしながら『顔合わせ』をするケース」が増えているという。ただ、今は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、行わない傾向もある。そのときの状況に応じて、両家の判断で決めていくとよいだろう。
当日の服装は、一方が正礼装ならもう一方も正礼装などと、「両家の格」を合わせるのがマナー。これに関して、失敗例を西出さんは挙げている。
ある大手企業で役職のある男性からは、お嬢様の結納時に、ホテルでお食事をしながら簡易的に行いましょうといわれたから、ボタンダウンのシャツで参加したところ、お嬢様が大変恥ずかしい思いをしたとご立腹なさり、結婚式の当日まで口をきいてもらえなかった―というお話をうかがったこともあります。(本書より)
こうしたトラブルを避けるため、「互いにどのような服装で出向くのか、結婚する2人を通じて確認し合いましょう。きちんとコミュニケーションをとれば、問題にはなりません」と、西出さんは説く。
顔合わせの挨拶は、男性が自分の親を紹介してから男性の親が自己紹介し、次いで女性が自分の親を紹介し、最後に女性の親が自己紹介するという流れで。
挨拶が終わったら歓談に入るが、細かい部分まで意見をすり合わせ、確認し合うことが大切だという。それには「家族の考え方、地域的なしきたり、形式、仲人や媒酌人を立てるかどうかなど」が含まれる。
仕事において招待された会食に1人で参加しない
50代に入ると、会食・パーティの参加においても立ち位置が変わってくる。
それまでは、招待されたら一部下として上司の指示に従っていればよかったのが、役職が上がって権限と部下を持つ側になった今、意識も変えねばならない。これについても、西出さんは留意ポイントを3つ出している。
1 参加の有無と無関係に感謝を
2 必ず同席者を探す。1人ではなるべく行かない
3 断る場合でも、言い回しに注意
招待された場合、まずは「ありがとうございます」と感謝する。西出さんは、「『いつものことだ』『またか』などの気持ちは禁物。招待されたことへの感謝を笑顔で伝えましょう」と釘を刺す。都合がつかなければ、感謝の言葉のあとで断ることに問題はない。ましてやコロナ禍においてはなおのこと。もしも、スケジュールが埋まっているのならシンプルに、「せっかくお誘いいただいたのですが、あいにくその日は予定が入っておりまして」と伝えればよい。
誘ってきたのが取引先で、自社が「社内ルールで取引先との会食がNG」という場合はどうか。西出さんは、以下のように説く。
「自分たちの問題で出席できない」といった言い方を心がけましょう。「弊社のコンプライアンスの問題で、会食を控えるような傾向にありまして」「繁忙期で時間的にむずかしい状況でして」といった具合です。このような場合でも、招待してくださったことに対する感謝の気持ちは、最後まで伝えるようにしましょう。(本書より)
スケジュール的にも社内ルールの点でも問題なく、参加できるとなった場合、くれぐれも注意したいのは「1人だけでは出席しない」ことだ。癒着などを疑われる可能性を回避するためだが、まず「何人でいらっしゃいますか」と先方の参加人数を確認。「では、差し支えなければ私の部下の〇〇も、勉強のために同行させていただいてもよろしいですか?」と、相手側に近い人数での参加を伝える。
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ここまで読まれ、一度ならずヒヤッとした方は多いのではないだろうか。後悔先に立たず。本書を本棚の1冊に加え、いざという時の手引きに活用されることをすすめたい。
【今日のマナー向上に役立つ1冊】
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。