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織りと洗いの奇跡が生んだ市松デニムのバッグ【メイドインニッポン紀行】

取材・文/編集部

ここに一枚のデニム生地がある。よく見ると、東京五輪のエンブレムにも採用された日本伝統の市松模様の縁取りが、縫い目のように立体的に浮き出ている。パッチワークのようにも見えるが、じつはこれは一枚に織られたデニム生地なのである。

「デニム生地の新しい表現を探って試行錯誤していたところ、偶然に出来上がったのがこの生地です」と語るのは、本品を企画プロデュースした北村達男さん。「そしてこの生地の誕生には、織り、洗い、縫製という3つの工程における、高度な熟練の技術を結集させる必要がありました」

北村達男さん

本品が生まれたのは、広島県東部から岡山県西部にまたがる、かつて「備中びっちゅう)」「備後(びんご)」と呼ばれたエリア。古くから織物の生産が盛んで、なかでも福山に近い井原(いばら)地域は、知られざる世界的なデニム生地の産地である。隣接する笠岡出身の北村さんも、デニム製品を身近に感じながら育ったという。

「近所の普通の家でも、縫製を請け負ってミシンがけの内職をしているところがいくつもありました」

そんな北村さんは、アパレルメーカー勤務を経て独立。個人で服飾雑貨のプロデュースと販売を行う会社を立ち上げた。布地についての豊富な知見を活かし多くのアパレル製品を世に送り出す中で、とくに追求してきたのが、慣れ親しんだデニムという生地の新たな可能性だった。

北村さんは同エリアで縫製業を営む原田新作さんとアイデアを交わし、皮革とデニムを融合させた鞄を作るというコンセプトに至った。

デニム生地を使った簡易な袋物なら従来からあるが、目指すのは大人の使用と選択眼に耐える、より本格的な鞄だ。そのためには、デニム生地の裏に芯貼りして張りをもたせたり、革と布という別素材を巧みに縫製する高度な技術が必要とされる。デニム縫製が盛んな同エリアでも、それだけの技術力を有する工場は限られるが、まさに原田さんの工場はそのひとつであった。

原田新作さん

「でも、よくある無地のデニム生地を製品化しても面白くない。この地域ならではの技術力を駆使したインパクトのある生地がほしかったのです」(北村さん)

着目したのは「ジャカード織り(ジャガード織り)」のデニム生地。フランス人発明家のジャカールによって考案されたジャカード織機で織られた生地で、複雑で立体的な織柄が可能となり、一枚のデニム生地の中に複数のパターンを混在させることもできる織り方だが、一般的にはデニム生地の生産に使われることは少なく、同エリアでもジャカード織りを駆使できる技術力をもった織元は数少ない。北村さんはそんな織元に何度も足を運び、織り職人と意見交換を重ねつつ、様々な織柄のデニムを試作した。市松柄のデニム生地も、そうして生まれた。

“織り”を担当したデニムの織元。

ジャカード織機で市松模様を織り出す。

ただしデニム生地と革を組み合わせるとなると、克服すべき大きな問題が生じる。デニム製品は色落ちや収縮を防ぐために、縫製後に専門工場で「洗い」(ウォッシュ)をかけるのだが、革と一緒になった状態では洗うことができないのだ。したがって縫製前の反物(原反)の段階で洗いをかける必要がある。北村さんは、この作業を引き受けてくれる加工業者を探すがなかなか見つからない。普通はやらない特殊な作業であり、結果の品質について責任を持てないと尻込みされるのは当然のことだった。

そんな中、同エリアで1軒だけ、この原反での洗いに協力してくれる加工業者が見つかった。ロールに巻かれた原反を開き、適度な大きさに裁断し、特別な大型洗浄機を使って特殊なバイオ加工による洗いをかけることで絶妙な風合いを出し、また縫い合わせてから乾燥させるのだ。熟練の洗い技術が必要とされる作業だ。

“洗い”を担当した工場。

巨大な“物干し”で原反のまま乾かす。

ところがここで思いがけないことがおきた。ジャカード織りのデニム生地を洗いにかけたところ、織りの一部が隆起し独特な凹凸感が生まれたのだ。縦糸と横糸の収縮率の違いによるもの、という仮説はあるが、どうしてそうなるかは正確にはわからないと北村さんはいう。さらには生地に使う糸の番手(太さ)を変えると隆起効果が出にくくなることもわかった。織りと洗いとの試行錯誤を繰り返して、最適な番手も割り出せた。

唯一無二の立体的な風合い。

こうして偶然のように生まれた独特な市松デニム生地は、微妙な陰影をともなう立体感が幾何学的なパターンとあいまって、大人の上品な遊び心を感じさせてくれる。表面の凹凸は見た目に高級感を醸し、持った時の手のひらの感触も心地よい。経年変化も楽しめ、長く使用することでビンテージデニムならではの表情が楽しめる。

熟練の技で“縫製”される市松デニム。

完成品にも入念なチェックが施される。

「この生地を使ったシリーズには、技の備後という意味をこめて『WAZABI』というブランドを冠しました。この2ウェイバッグは、手持ちでクラッチバッグとして、ストラップをつければショルダーバッグとして使えます。ちょっとした外出にぴったりの使い勝手のいいサイズに仕立てました」(北村さん)

デニムの産地・備後が誇る、織り、洗い、縫製の三位一体の技が結実した、新しいながらもどこか懐かしい唯一無二の風合い。愛用に足る逸品だ。

取材・文/編集部

今回取材した岡山デニム「WAZABI collection」の市松2WAYバッグは小学館の通販メディア「大人の逸品」で購入できます。リンク>> http://www.pal-shop.jp/

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