文・写真/秋山都
日本の町工場における技術力の高さについては、メディアでもよく取り上げられている。いわく、最先端ロケットに使われる部品の金属成形や、アップル社の製品に使われる鏡面仕上げなど、日本の町工場が世界の技術を牽引しているのだとか。
今回ご紹介するのは、そんな職人の技術力が思いがけない商品に結晶したという、ある中小企業の物語だ。
主役となるのは、1951年に創業以来、半世紀以上に渡って自動車部品を作りつづけている横山興業(愛知県・豊田市)。その熟練した職人による研磨技術を活かして、バーテンダーが使うカクテルツールのファクトリーブランド「BIRDY.」(バーディ )を発表し、世界中のバーテンダーから高く評価されてきた。
2016年には新たにテーブルウェアのライン『BIRDY. TABLE』(バーディ テーブル)へとフィールドを広げ、家庭でも気軽に使える商品ラインが増えたが、そんなバーディからこのほど発表されたのが、ステンレス素材を使用した「BIRDY.デキャンタ」。ワインをデキャンタージュするための容器である。
デキャンタージュといえばまず浮かぶのはガラス製のデキャンタ。高級レストランで高価なワインを注文した時にソムリエにやってもらうもの、という印象だった。しかし、この「BIRDY.デキャンタ」は手入れの簡単なステンレス製で、イエ飲みをより楽しくしてくれるすぐれものなのだ。
することといえば、飲む直前にデキャンタへグラス1~2杯分を注ぎ、10~20回スワリングする(手でくるくる回してワインに空気をなじませる)だけ。それだけでワインが飲み頃になり、香りが華やかになる劇的な変化が起きるのだ。
その秘密は、デキャンタの内側に職人の手作業で施されたミクロレベルの微細な凹凸。この凹凸によって、揺られるワインに副流が生まれ、より多くの空気に触れることで、短時間のうちにワインをまろやかにするのだという。
このデキャンタが力を発揮するのは、どちらかといえばデイリーな赤・白ワイン。専門家であるワイン&スピリッツ マーケティング・コーディネーターの岡真木さんは「1,000円以下のワイン(とくに渋みや酸味の豊かなカベルネ・ソーヴィニヨン)が2,000円クラスの晴れの日ワインに早変わり。空気との触れ合いで香味成分が際立ち、より複雑でまろやかな風味に」なると言う。
そして変化をとげるのはワインだけではない。山廃、生酛、熟成古酒など、香り・味わいが強い日本酒も、デキャンタージュすることで口当たりがやさしくなり、隠れていた芳香がたってくるのだ。
その味や香りはもちろんだが、ゆったりと変化を楽しむ時間がなにより豊かで楽しいだろう。デキャンタを片手にクルクル、春の宵を楽しんでいただきたい。
【BIRDY.デキャンタについてのお問い合わせ】
■電話/0565-58-5558(横山興業)
■オンラインショップ/ http://www.birdy.shop/
文・写真/秋山都
編集者・ライター。元『東京カレンダー』編集長。おいしいものと酒をこよなく愛し、主に“東京の右半分”をフィールドにコンテンツを発信。谷中・根津・千駄木の地域メディアであるrojiroji(ロジロジ)主宰。