『麒麟がくる』休止中の代替番組第三弾は、『利家とまつ』の名場面スペシャル。日韓共催のサッカーワールドカップが盛り上がった2002年放映の大河ドラマ『
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ライターI(以下I):『麒麟がくる』休止代替番組の第三弾は2002年の『利家とまつ』の名場面スペシャルです。
編集者A(以下A):18年前ですか。視聴率的には成功した大河ドラマです。北陸新幹線の金沢開業が2015年ですから、新幹線開業前だったんですね。
I:前田利家が唐沢寿明さん、まつが松島菜々子さんという豪華なダブル主演でした。信長役は反町隆史さん。信長の〈であるか〉の台詞が多用されました。
A:〈であるか〉〈である〉〈であるのう〉〈であるな〉などいくつもバリエーションがありました。私は信長といえば、1983年の『徳川家康』の役所広司さんの世代ですが、反町さんの信長は信長らしい信長だったと思います。
I:風俗考証を担当された二木謙一先生(國學院大學名誉教授)が著書『時代劇と風俗考証』(吉川弘文館)の中でこんなことを記しています。
〈『利家とまつ』では、京都や安土にいる信長の側近の利家が、しばしば一人で故郷の尾張荒子に帰っていたり、信長に従軍して戦場にいる利家の所に、まつが姿を現わしたりすることなどは史実としてありえない。けれども夫婦愛をテーマとする戦国版ホームドラマを売り物にしているからには、そうしたフィクションにも目をつぶるよりほかない。こうした史料にないところを、いかに面白く創作するかが、脚本家の腕のみせどころとなるのである〉
A:ありえないことでもいかに自然な形でストーリーに組み込むかが、ドラマ作りの技量を問われる部分なんでしょうね。やり過ぎたら興覚めですし、ぎりぎりの線を見極めるのは難しいことです。『利家とまつ』の脚本は1995年の『秀吉』と同じ竹山洋氏。戦国版ホームドラマと銘打ちながらも重厚なドラマとして展開されていたのは、やっぱり脚本の力だと思います。
I:竹山さんは、まつに並々ならぬ思い入れがあったんだと思います。そういうところも良作になった原因なのでしょう。そのほか、印象に残っているのは、百万石を目指そうとみんなで〈百万石! 百万石!〉とシュプレヒコールを展開する場面(第12話)です。なんだかわかりませんが、気持ちが高揚したことを覚えています。
A:そうですか(笑)。高揚しましたか。
I:まつの決め台詞の〈私にお任せくださりませ〉も忘れられない台詞です。今から考えると〈私、失敗しませんので〉に通じるものがあったのではと思います(笑)。脚本の竹山さんは『秀吉』の際も〈心配ご無用!〉というキャッチーな台詞を多用しましたからね。
A:〈心配ご無用!〉って懐かしいですね。『利家とまつ』では、秀吉の香川照之さん、おね(ねね)の酒井法子さん。加えて佐々成政(演・山口祐一郎)も主要キャストで、その妻はる(演・天海祐希)との友人関係も展開されて、ホームドラマパートの充実がはかられました。一方で、佐々成政の物語が重厚でした。そのあたりのバランスが絶妙だった記憶があります。
I:考証といえば、『麒麟がくる』ではあまり見られないお国言葉ですが、『利家とまつ』では尾張弁などが使われていますね。
A:リアリティなのかもしれませんが、ただでさえ現代とは様相の違う時代劇でお国言葉が出てくると、聞きとりづらかったりすることもありますね。何を印象付けたいかによって、脚本家や制作陣の方が判断されるのでしょう。
『利家とまつ』版〈本能寺の変〉ではショーケン光秀が大演説
I:そのほか印象に残っているのは、第一回で利家が〈かぶき者〉として登場したシーンですかね。さらに及川光博さんが前田慶次郎役を演じてドラマが賑やかになった記憶があります。『麒麟がくる』絡みでは、伊藤英明(斎藤義龍役)さんが利家嫡男の前田利長役で出演していました。
A:さらに、柴田勝家役を松平健さんが演じて締めてくれましたね。この年、松平さんは「マツケンサンバII」をNHKの「歌謡コンサート」で披露していたりします(紅白歌合戦出場は2004年)。
I:『利家とまつ』の本能寺の変も重厚な展開でした。光秀役の萩原健一さんの好演が記憶に残っています。
A:萩原健一さんの光秀が、信長に殴打される場面が印象的です。萩原さんは、声を裏返しながら光秀を熱演していました。
I:本能寺の変が近づくにつれて、光秀の顔がどんどん血の気を失っていって、なんだかおどろおどろしいまででした。さて、『利家とまつ』の本能寺を端的に表す光秀の台詞を掲示したいと思います。
〈よいか! みなの者に伝える!今こそこの光秀、天下を変える! 天下布武と唱え、民草を安寧に導くための戦といいながら、数限りなく人々を殺し、宗門を虐げ、武田が滅びると自らを神と称し、誕生の日を聖なる日となした! そして! 帝を自らの指揮下に置かんとする所業、許し難し!(軍配を上げたり下げたりして振りながら)天と神々に代わり、この惟任日向守光秀が成敗いたす!(首をもたげ、目を見開く)みなの者!敵は本能寺にあり!〉
A:それを受けて家臣たちが一斉に「おおー!」と応えるんですよね。血走った目に涙がうっすらと浮かぶ光秀の姿が忘れられません。
I:本能寺の変を扱った歴代大河ドラマでは、帰蝶(濃姫)は信長とともに戦って討ち死にするシーンが描かれるものが多いですが、『利家とまつ』では、帰蝶の存在そのものが希薄でしたね。
A:帰蝶は石堂夏央が演じていましたが、森口瑤子演じる側室の吉乃の方が出番が多かったです。本能寺の変でも帰蝶の存在は全く触れられず。帰蝶が大きくフィーチャーされている『麒麟がくる』では、本能寺の変で帰蝶がどんな働きをするのか、今から楽しみです。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり