文/鈴木拓也
主に新刊図書を論評する、「書評」という職業がある。
この職業に携わる人を書評家と呼ぶが、その一人が「サライ.jp」でもお馴染みの印南敦史(いんなみ あつし)さん。
印南さんは、「ライフハッカー日本版」、「東洋経済オンライン」、「ニューズウィーク日本版」といった、名だたるウェブメディアに書評を寄稿しており、その数は年間約500冊にもなるという。
書評家という職業人の実像は、あまり表には出てこない。それだけに「毎日どのように仕事を進めているのか」「どんな私生活を送っているのか」などが気になるもの。そうした側面を書評家自身が明かしたのが、印南さんの著書『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)だ。
以下、本書をもとに、書評家の仕事にせまってみよう。
■「とにかく地味」な書評家の1日
書評家の1日とは、どのようなものなのだろうか。
デスクの横に山と積まれた書籍を相手に、朝から晩まで読みこんでは、パソコンに文章を打ち込む姿がなんとなく想像されるが、果たして…?
印南さん自身についていえば、朝食後の7時半頃にパソコンのスイッチを入れることから、業務が始まる。まず、自分が寄稿した記事をチェックし、自身のSNSで告知。その後は、ニュースサイトから個人ブログまで、ネット上の様々な情報を読んでいく。
そして、書評の執筆を開始。昼食をはさんで午後も執筆を続行する。合間に短い仮眠をとったり、外に出て書店を覗いたりなど気分転換を図るが、午前から午後にかけてデスクに向かうサイクルは変わらない。
夕食は、家族と団らんの機会であり、お酒を楽しむこともある。そのあと、再びデスクに戻り、読書をするか執筆を続ける。12時前にベッドに入るが、そこでも眠りにつくまで読書。
読書のペースは1日あたり1~2冊。そして、「毎日なにかしらの締め切りが待って」いるため、いきおいストイックな日々になるようだ。本人は、「ライフスタイルはとにかく地味」だと述懐する。
■書評家が考える「おもしろい本」とは?
印南さんの自宅には、書評を望む多くの出版社から、月に60~100冊の献本が届くという。くわえて、視野を広げるため、定期的に書店を訪れては、自分でも積極的に購入。近しい人の口コミも参考にするとか。
職業柄、乱読ではあるものの、読みたい本・避けたい本はあると、印南さんは述べる。読みたい本とは、イコール「おもしろい本」。その基準としているのが、一つには著者の人間性。人生経験を積んできた人の書いた本には、そうしたおもしろさが詰まっているという。
また、オリジナリティも重要視し、「自分らしさが出ている」、「自分にしか書けない」、「人の真似でない」のが必須の用件。
多くの書評家が避けて通る「話題のベストセラー」について、印南さんは、それが理由で読まないということはしない。むしろ、「できるだけ読むようにもしている」そうだ。そうした本には、自分の守備範囲のジャンルと異なるものもあるが、だからこそ意外な気づきやおもしろさに出会うメリットがあるというのが理由。それを期待して、中身はあえて吟味せず、表紙のデザインや帯のコピーだけで買うこともあるとも。
■読書術を身に付けるための書評のすすめ
印南さんは、過去に読書術の本を3冊書いているが、「読めない自分をなんとかしたい」と思っている人が予想以上に多いことを実感している。むしろ、自分の読書法に満足している割合の方が少ないかもしれないとも指摘。そうした人たちにすすめるのが、「書評を書く習慣をつける」。
・あくまで「記録」と考える
・難しいことを考えない
・文字数も書き方も自由
・人に見せない
これらを念頭に置き、読むたびにその本の内容を“自分なりに”まとめる習慣をつけるのです。自分のために書くものであり、評論するわけでもないので「書評」というよりは「メモ」に近いかもしれませんが、どうあれその習慣は、少なからず読書スキルを高めてくれると思います(本書140~141pより)
習慣化することで、読んだ本についての記憶を効果的に残せるなど、その利点を印南さんは力説している。
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本書は、職業としての書評の世界をディープな面まで明かすというより、それに付随した多様なトピックに触れながら、読書と書評の効用を俯瞰できるものだ。読書好きなら得るものは大きいので、一読をおすすめしたい。
【今日の教養を高める1冊】
『書評の仕事』
https://www.wani.co.jp/event.php?id=6612
(印南敦史著、本体830円+税、ワニブックス)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。