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文/池上信次

前回はジャズ・バンドの編成を紹介しましたが、今回は、その最小編成の「ソロ」について見ていきましょう。

アート・テイタム『ピアノ・ソロズ』

アート・テイタム『ピアノ・ソロズ』

最初に知っておきたいのは、ジャズにおいて「ソロ」=「独奏」は特別な編成であるということ。というのは、ソロ演奏には、ジャズの大きな特徴のひとつである「相互作用(インタープレイ)」がないからです。ジャズ演奏は会話のようなものといわれるように、複数人の演奏であれば必ず共演者の影響が大きく出ます。これこそがジャズの要件といわれることがあるくらいに、それはジャズならではの魅力なのです。また、約束事もさまざまありますが、それらも面白い演奏を生み出す要素になっているのですね。でもソロにはないのです。

決めごとなし、制約は現実的には「演奏時間」だけという「ソロ」の場で何をどう演奏するか。これは、もうそこからそのアーティストの演奏が始まっているともいえます。ソロ演奏のタイプ分けはいろいろな観点からできますが、ここではまず大きく二分して見ていきましょう。それは、1)枠組みのあるもの と、2)枠組みのないもの。この枠組みとは、あらかじめ作られた曲のこと。それがないものは、フリー・フォーム(そのままの英語ですね)と呼ばれます。もちろんこちらも複数人の演奏もありますが、ソロの場合は「完全に」フリーです。

今回はその枠組み=曲があるソロ演奏を見ていきます。ソロ演奏の多くは、この、ふたり以上と同じように「曲」を演奏するスタイルです。「曲」を演奏することは、他者と同じ土俵に立つということです。これにより自身の個性をより明確に発揮できるのですね。でもこれはふたり以上編成のジャズ演奏でも同じです。ソロの場合は、インタープレイという大きな聴きどころはありません。自分ひとりですからすべてが想定内であり、その場で新しいなにかを生み出すことはとてもたいへんなことといえます。自分の表現能力の幅が狭い人は狭いまま、自分がもっている技量がすべてです。

というわけで、ジャズ的にいいところはないように見えなくもないですが、そこはそれを逆手に取るのですね。共演者のことは考えなくていいわけですから、共演者がいることによる(多くはプラスに作用しますが)マイナス部分がゼロともいえます。「好き勝手にできる」ことで、どれだけ「ソロならではの表現」ができるかということですね。その勝負ネタはさまざまですが、多く見受けられるのは、飛び抜けた「演奏技術」をもって個性を表現するスタイルです。これは選曲も含めてそのアーティストの「個性」そのものといえましょう。優れた技術を駆使した圧倒的な表現は、むしろ共演者は不要と思わせてくれます。なかにはテクニック過剰な「ひけらかし」と感じるものもあるかもしれませんが、ジャズにおいてはそれも個性であり、魅力なのです。
(そのほかの「勝負ネタ」のソロ演奏は次回以降で)

「枠組みのある」ソロの名演収録アルバムと聴きどころ
(1)アート・テイタム『ピアノ・ソロズ』(デッカ)
アート・テイタム『ピアノ・ソロズ』

アート・テイタム『ピアノ・ソロズ』

演奏:アート・テイタム(ピアノ)
録音:1940年
ジャズで「ソロ」といえば、アート・テイタム(1909〜56)の名を挙げないわけにはいきません。1920年代から活動を始めたテイタムは、まさに天才です。そのピアノ演奏は、とにかく「圧倒的」。このソロ演奏に共演者の入る隙間はまったくありません。さらには、聴き手の呼吸も止めてしまうほどの密度感で迫ってきます。どの曲もちょっと音を詰め込み過ぎで、装飾過多の印象も受けますが、こんなことができる人は他にはいないのですから、それこそが個性といえましょう。活動当時、テイタムのピアノのすごさはクラシック界にも伝わっており、ウラジミール・ホロヴィッツやアルトゥーロ・トスカニーニもジャズ・クラブに聴きに来たという逸話があります。

(2)ジョー・パス『ヴァーチュオーソ』(パブロ)
ジョー・パス『ヴァーチュオーソ』

ジョー・パス『ヴァーチュオーソ』

演奏:ジョー・パス(ギター)
録音:1973年8月28日
ジャズで「ソロ・ギター」といえば、それはジョー・パスの代名詞。というのはパスはなんと10枚以上のソロ・ギター・アルバムを発表したから。これはその最初の1枚。パスはひとりでメロディとベース・ラインとコードを弾いています。クラシック・ギターではソロ演奏は普通のことですが、ジャズではパス以前にはほとんどなく、パスはジャズマンですから当然全部即興で演奏します。そこがすごいところ。溢れ出るアイデアとそれを瞬時に形にする技術の高さあっての個性、ですね。大スタンダード11曲とブルース1曲ですが、ワン・パターンにならずどれも生き生きとしているのは、即興だからこそ。ひとりでもノリノリ。

(3)ハービー・ハンコック、マイケル・ブレッカーほか『ディレクションズ・イン・ミュージック』(ヴァーヴ)
ハービー・ハンコック、マイケル・ブレッカーほか『ディレクションズ・イン・ミュージック』

ハービー・ハンコック、マイケル・ブレッカーほか『ディレクションズ・イン・ミュージック』

演奏:マイケル・ブレッカー(テナー・サックス)
録音:2001年10月25日
このアルバム収録の「ナイーマ」は、マイケル・ブレッカーによる、7分半に及ぶテナー・サックスのライヴでのソロ演奏。「ナイーマ」は、テナー・サックスの巨人、ジョン・コルトレーンの代表曲。コルトレーンの大きな影響を受けたブレッカーが、コルトレーンのイメージを背負いつつ、ポスト・コルトレーンの代表格となった「これぞブレッカー」というスタイルで聴かせます。ハービー・ハンコック(ピアノ)らによるスーパー・バンドにもかかわらず、あえてソロで演奏したところに、大きな自信を感じさせますね。テナー・サックスのソロ演奏は1940年代からレコードに残されていますが、これは歴史的にも突出したソロ・サックスの名演といえます。

(4)佐山雅弘『ヒム・フォー・ノーバディ』(JVC)

演奏:佐山雅弘(ピアノ)
発表:1995年
このアルバムに収録されているソロ・ピアノ演奏「ドナ・リー」は、「ビ・バップ」と呼ばれる、コード分解によるアドリブ手法を開発したチャーリー・パーカー(アルト・サックス)の代表曲。ビ・バップは、単純にいえば単音(サックス)でコード進行を表現するというものですが、ここで佐山はなんと、ピアノ最大の武器であるコード(和音)を封じ、テーマからアドリブまですべて「単音」で弾きます。管楽器と同じ土俵に上がり、ビ・バップで勝負するというアイデアがまず斬新ですが、演奏も圧倒的。でもこれにコードがついていたら、これほどの緊張感のある演奏にはならなかったはず。ソロ・ピアノならではの試みであり表現といえましょう。(なお現在CDは入手が難しいですが、ストリーミングで聴けます。)

(5)ジャコ・パストリアス『ジャコ・パストリアスの肖像』(エピック)

演奏:ジャコ・パストリアス(ベース)
発表:1976年
ジャコのファースト・アルバム。ここに収録されている「トレイシーの肖像」は、エレクトリック・ベースのソロ演奏です。「ベースでソロ演奏をする」ことだけでなく、高度なテクニックによるハーモニクス(倍音)を駆使したメロディ演奏で、ジャコはベースという楽器の概念をまったく変えてしまいました。ジャズのベースの演奏スタイルは、「ジャコ登場以前」「以後」と分けられるほどその影響は多大です。これはジャコのオリジナル曲なので、上記の紹介アルバムとは「土俵」が違うのですが、演奏技術も個性を作ったというひとつの例として。

※本稿では『 』はアルバム・タイトル、そのあとに続く( )はレーベルを示します。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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