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当時31歳の樹木希林が演じた老婆役が光る『寺内貫太郎一家』【面白すぎる日本映画 第23回・特別編】

文・絵/牧野良幸

樹木希林が9月15日に亡くなった。享年75歳。癌に侵されながらも最後まで仕事に打ち込んでいたという。

樹木希林は個性的な空気感で映画、テレビドラマ、CMで活躍した女優だ。たとえ端役で出演しても独特の存在感があったのが樹木希林の映画であるが、今回は特別編としてテレビドラマ『寺内貫太郎一家』を取り上げてみたい。これも「面白すぎる」テレビドラマなのだ。

『寺内貫太郎一家』は1974年(昭和49年)に始まった人気番組だ。僕が高校二年生の時である。

舞台は石屋である。家主の貫太郎にその巨体と頑固そうな容姿を買われて作曲家の小林亜星。妻に“日本のお母さん”加藤治子。長女に『女囚さそり』で人気の梶芽衣子、長男にアイドルの西城秀樹。そしてお手伝いにこれまたアイドルの浅田美代子、さらに職人役としてベテラン喜劇俳優の伴淳三郎、左とん平という豪華な顔ぶれである(くしくも西城秀樹、左とん平も今年鬼籍に入ってしまわれた。ご冥福をお祈りします)。

こんなに眩しい石屋が世の中にあるだろうか。あるわけはない。

何を隠そう僕の家も石屋だった。現実の石屋は「石材店」と名乗るように機械を導入した半ば工場のような仕事場だ。ドラマのようにのんびりした仕事ぶりではない。また息子も(僕のことだ)西城秀樹ほどカッコいい青年ではないし、母親も加藤治子ほど色っぽくはない。僕の家にも住み込みの職人はいたが、お手伝いさんなどいるはずもない。それでもテレビドラマに石屋が取り上げられたことが嬉しくて毎週お茶の間で見たものである。

話をドラマに戻すと、これだけ個性的な配役陣でありながら格段に存在感があったのが、樹木希林(当時は悠木千帆)の演じたおばあさん、寺内きんだった。出演時に樹木希林は31歳ということになるから老け役もいいところである。しかし樹木希林の演技はおばあさんという設定を超越したものだった。

ヒネくれているのに可愛らしい。腰を曲げているのに動きは若い(貫太郎にも投げ飛ばされたりする)、年寄りなのに猫のように嗅覚が鋭い。沢田研二のポスターを見て「ジュリーィィ〜!」ともだえるギャグは大人気だった。

たとえセリフがなくても目が離せない。ドラマでは貫太郎と周平の取っ組み合いの親子ゲンカがお約束であったが、そのシーンでさえちゃぶ台を片付ける樹木希林の後ろ姿が可笑しかったりする。また西城秀樹と隅の方で意味のない(?)小突き合いをしていたり、大女優の加藤治子にアドリブを仕掛けてみたりと、共演者さえかき回しているところも面白かった。

『寺内貫太郎一家』は群像劇のようなところがあって、どの出演者も主人公になるほどの存在感と役割が与えられていたが、そこに絡む脇役となると樹木希林が一手に引き受けていた気がする。寺内きんが主役として前に出た回も多かったと思う。

今あらためて考えると、悠木千帆から樹木希林に改名したあとの活躍を彷彿させる姿をブラウン管で毎週見ていたのだなあと思うのである。もちろん石屋の倅はそこまで気づかず、シュールなおばあさんを見てゲラゲラ笑っていただけであるが。あらためて樹木希林さんのご冥福をお祈りします。

【今日の面白すぎるテレビドラマ】
『寺内貫太郎一家』
製作年:1974年1月16日 – 1974年10月9日、全39話
放映:TBS系列水曜劇場
カラー/55分(1話分)
キャスト/小林亜星、加藤治子、 梶芽衣子、 西城秀樹、 樹木希林(悠木千帆)、浅田美代子、伴淳三郎、左とん平ほか
スタッフ/原作・脚本:向田邦子 演出:久世光彦 音楽:井上堯之

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

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