夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。水曜日は「クルマ」をテーマに、演出家のテリー伊藤さんが執筆します。
文/テリー伊藤(演出家)
こんにちは、テリー伊藤です!
前回はクルマとの相性について書きましたが、僕の場合、一番相性がいいといえるのが、フォルクスワーゲンです。メルセデス・ベンツやBMW、アウディにも乗りましたが、同じドイツ車でもフォルクスワーゲンだけは特別。今回はその理由をお話ししたいと思います。
■「ポパイ」と「ラブ・バッグ」でビートルに染まった
サライ世代のみなさんのうち、とくに40代以上の方なら同感でしょうが、僕が若い頃は今のようにインターネットで世界中の情報を瞬時に調べることなんてできるわけもなく、遊びやファッションは先輩方を真似たり、雑誌を読み漁って学んだものでした。なかでも「ポパイ」の存在は大きかった。主にアメリカ西海岸の、テニスやスケートボード、ジョギングといったスポーツとそのファッションを取り上げていて、どれも最高に格好いいの。胴長短足の日本人が真似しても、絶対同じようにはならないんだけどね。
情報に乏しかったのは、クルマも同じ。知っているのはフォルクスワーゲン・ビートルやミニ、モーガンくらいで、これらのクルマは僕にとってTシャツやジーンズ、スニーカーみたいな存在だったんです。面白いもので、若い頃に抱いた憧れは年をとっても変わらないんですよね。今や憧れを通り越して、自分の中の「定番」みたいになっている。なかでもビートルはダントツ。
それは中学生の頃に観た映画の影響も大きいと思います。「ラブ・バッグ」っていう映画、覚えてますか? 冴えないレーシングドライバーが中古のビートルを買ってレースに出ると、実はそのビートル、機械なのに魂があって、勝手に走ってライバルをごぼう抜きしちゃうという話。僕が今でもビートルを好きなのは、この映画で刷り込みされたんでしょうね。
■ワーゲンスバスを買いそびれて大ショック!
社会人になって26歳の時に、白いビートルを買いました。それまでは愛らしいデザインに惹かれていたんだけど、乗ってみるとシンプルで頑丈だし、とても使いやすいクルマだということがわかりました。特に、リアに積んだ空冷のフラット4エンジンがたまらなくいいんですよね~。僕のフォルクスワーゲン愛はますます大きくなって、のちに第二次世界大戦で使われた軍用車の末裔であるキューベルワーゲンにも乗ったし、フォルクスワーゲンをベースにアメリカで作られたオープンバギーは今でも湘南の別宅に置いてあります。
後者はまさに「ポパイ」の影響ですね! あと、今でも欲しいのが「ワーゲンバス」でおなじみのタイプ2。以前、たまに行くフォルクスワーゲン専門店でタイプ2のキャンピングカーが置いてあって、その時は試乗までしておきながら、ほかのクルマとの兼ね合いもあって買わなかったんですよ。その頃は確か300万円くらいだったと思うけど、今調べてみたら、相場が500万円級になってて大ショック! やはりクルマは出会った時が買い時ですね。
思うに、僕がフォルクスワーゲンに惹かれるのは、ドイツ車だからというわけじゃなく、アメリカの気分が味わえるからなんだと思います。1970年代、アメリカの若者たちが中古のワーゲンバスやビートルを手に入れてサーフィンや旅で遊び倒した文化に、僕は何らかの形で影響を受けているんですね。
だから、アメリカ車も大好きです。以前、こんなこともありました。フロリダをレンタカーで旅したときのことなんですけど、横をシボレー・コルベットのオープンカーが追い越して行ったんですよ。しかもドライバーは色っぽい女性! どこまでも続く青い空に、コルベット特有のエロいボディが実に合うんだなあ。日本に帰ってもその光景が忘れられなくて、ディーラーに駆け込んで買ってしまいました。コルベットって、昔からV8エンジンを積んでるんだけど、アクセルをちょっと強めに踏むとすぐにホイールスピンして、「ウォォ〜ッ!」っていう気分になる。アメ車の魅力はそこに尽きます。ハンドリング性能とか路面追従性とか気にしちゃダメ。直線番長なんです。わかりやすくて格好いいクルマは、僕の大好物です。
【今週のテリー・カー:フォルクスワーゲン ビートル】
文/テリー伊藤(てりー・いとう)
昭和24年、東京生まれ。演出家。数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在は多忙な仕事の合間に、慶應義塾大学 大学院で人間心理を学んでいる。