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寺山修司が愛蔵していた妖しすぎる人形【文士の逸品No.05】

◎No.05:寺山修司の人形

寺山修司の人形(寺山修司記念館蔵、撮影/高橋昌嗣)

文/矢島裕紀彦

走っている汽車の中で生まれたという出生譚に始まって、年譜は意図的な虚構性に富む。主宰する劇団「天井桟敷」の演劇も、既成の劇場という枠から飛び出して市街劇を繰り広げるなど、話題に事欠かなかった。

そんな前衛的芸術家・寺山修司の、短歌から映画までの多彩な足跡をたどる場であったればこそ。青森県三沢市の寺山修司記念館には、何やら怪しげな実験場のような空気が満ちていた。

そこに、ヒロインとしてご登場願ったのは寺山愛蔵の一体の人形。取り出した巻尺で実測に及べば、高さ65センチ。これを、たとえば身長160 センチの女性に見立てスリーサイズを割り出すと、バスト 138、ウエスト 113、ヒップ130 という強烈な数字が現出した。その名も「大山デブ子」人形。自作の映画『檻』や演劇『大山デブ子の犯罪』にも登場する、寺山の創造物のひとつであった。

青い瞳と紅の唇。肉感豊かな乳白色の肌にまとうは、両足のストッキングとハイヒールのみ。右太股(ふともも)の靴下留に付着の小さな赤い薔薇が、いともエロティックな香り。が、やがて、エロスを超越した包み込むような母性のやさしさが周囲に漂ってきた。

かつて「母を捨てた」と述べたのも虚構。寺山の身辺には、つねに母はつの影があった。彼の愛した女性たちの肖像にも、驚くほどその面影が重なって見えたと伝えられる。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。『サライ.jp』で「日めくり漱石」「漱石と明治人のことば」を連載した。

写真/高橋昌嗣
1967年桑沢デザイン研究所 グラフィックデザイン科卒業後、フリーカメラマンとなる。雑誌のグラビア、書籍の表紙などエディトリアルを中心に従事する。

※この記事は、雑誌『文藝春秋』の1997年7月号から2001年9月号に連載され、2001年9月に単行本化された『文士の逸品』を基に、出版元の文藝春秋の了解・協力を得て再掲載したものです。

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