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江戸川乱歩が愛用した古い映写機【文士の逸品No.02】

◎No.02:江戸川乱歩の映写機

江戸川乱歩の映写機(個人蔵、撮影/高橋昌嗣)

文/矢島裕紀彦

うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと--そんな妖しく危うげな言の葉を、江戸川乱歩は好んで用いた。

明智小五郎や怪人二十面相といったキャラクターを生み出して日本の探偵小説の基盤を築く一方で、天井裏からの覗き見や蜃気楼、陰惨な性愛など、猟奇的、幻想的なテーマを取り上げる乱歩には、似合いの文句であった。

履歴にも、ある種の怪しさはつきまとう。30種に余る職業遍歴。46回に及ぶ転居。作家としても、真っ暗な土蔵にひとりでこもり、蝋燭(ろうそく)の明かりだけで原稿用紙に向かう、という伝説を自らつくり上げていた。

東京・豊島区に子息の平井隆太郎氏のもとを訪れると、乱歩愛用の9ミリ半の映写機が残されていた。国産「エクラA型」。フィルムはフランス製「パテー」を用いた。このフィルムが16ミリほど高価でなく、しかし、8ミリより映像に迫力がある。それ故の9ミリ半という選択であった。

幼少期からレンズや鏡の魔力に魅了されていた乱歩は、この映写機で、主に家族や友人の日常の姿を映し出していたというが、そこにさえ妖しい世界を感じてしまうのは、地下の乱歩の思う壺なのかもしれない。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。『サライ.jp』で「日めくり漱石」「漱石と明治人のことば」を連載した。

写真/高橋昌嗣
1967年桑沢デザイン研究所 グラフィックデザイン科卒業後、フリーカメラマンとなる。雑誌のグラビア、書籍の表紙などエディトリアルを中心に従事する。

※この記事は、雑誌『文藝春秋』の1997年7月号から2001年9月号に連載され、2001年9月に単行本化された『文士の逸品』を基に、出版元の文藝春秋の了解・協力を得て再掲載したものです。

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