衛生陶器のスゴ腕職人が技を競う「衛陶技能選手権」を見に行った

取材・文/小坂眞吾(サライ編集長)

「あなたの家にある、一番大きなやきもの(陶磁器)は何ですか?」――そう聞かれたら、何と答えるだろう。

直径一尺を超える大皿? 床の間の大きな花瓶? 庭の睡蓮鉢? いやいや、どの家にも欠かせない、もっと大きなやきものがあるはず。

正解は……「衛生陶器」、つまり便器である。たいていの家では、そうではないだろうか。

衛生陶器は、天然に産出する陶石や長石などを細かく砕いて水に溶いた「泥漿(でいしょう)」から作られる。磁器で有名な有田焼とほぼ同じだ。

これを石膏型に流し込んで成形するのも、やきものでよく使われる手法だが、大きな違いは、複雑な形のものを、型番ごとに、寸分の狂いなく量産しなくてはいけないこと。

原材料の陶石や長石は、産地によって質が違う。伝統的なやきものでは、その違いが味わいになったりするのだが、衛生陶器ではそれは許されず、陶石や陶土の状態を見極めて高水準の均質さを保つよう管理しなくてはならない。

製造現場でどんなに機械化が進んでも、天然素材を用いる以上、そこには「職人の眼」が必要で、それこそが、衛生陶器メーカーにとって欠くことのできない財産なのだ。

■“衛陶職人”たちの熱き戦いの場

2017年に創立100周年を迎えたTOTOグループでは、長年培ってきた職人技、モノづくりのDNAを未来につないでいくため、2012年から毎年、「衛陶技能選手権」を開催している。

選手権は「成形」と「施釉」に分けて競われるが、成形部門の第6回大会が2017年12月26日、TOTO小倉第一工場(北九州市)で催された。

選手権の開会式。国内4拠点、海外10拠点から選抜された33人が覇を競った。宣誓するのはディフェンディング・チャンピオン、小倉第一工場の豊永さん。

小倉第一工場は、1917年に「東洋陶器」として創立したTOTOの、創立の地にある。前身の「日本陶器」は愛知県にあった。それがなぜ小倉で創立したかというと、門司港が近くて輸出に有利なことと、原材料の陶石や長石が九州で豊富に採れたことがある。天然素材との密なつながりは、こんなところにも表れている。

さて、年の瀬の衛陶技能選手権には、TOTOグループの14拠点から33名が参加した。驚くべきはその内訳で、日本の拠点は4つしかない。残る10拠点は、中国4、台湾、タイ、ベトナム、インド、メキシコ、インドネシア各1拠点。海外輸出を念頭に創業した東洋陶器は、100年を経て、押しも押されもせぬグローバル企業に成長していたのだ。

世界の14拠点から選抜された、国際色豊かな選手たちに課された「種目」はふたつ。ひとつは型抜きされた衛生陶器のミニチュアに、指定された加工を施すこと。制限時間は1時間。もうひとつは原材料の粘土を、規定の太さでひもにする「ヨリ巻き」というもの。こちらは制限時間わずか1分である。

選手権に先立って、我々記者団にはこの2種目を体験する機会が与えられた。以下は体験しての個人的な感想だが、ミニチュアの加工は集中力があれば、そんなにおかしなことにはならない。もちろん、細かいところで差が出るのだが、ぱっと見にはまあまあマトモなものができる。難しいのはヨリ巻きだ。

小生、DIYを趣味としていて、自宅の壁を抜いて文庫本専用の本棚を造ったり、床の間の聚楽壁(じゅらくかべ)を手塗りしたりと、腕には覚えがある。陶芸教室の取材で初めてろくろを回したときも「あんた上手いね、ホントに初めて?」と(半ばお世辞だろうけど)言われたくらいの腕前だから、ヨリ巻きもそこそこできるだろうと踏んで挑戦した。

結果は惨敗。太さを均一にするどころか、そもそも円筒形にならず、平たく潰れてしまう。そして途中で細くなり、切れてしまう。しかもやり直すたびに、出来がますます悪くなる。

世界から集まった選手たちは、この難題をどうクリアするのか。いよいよ競技が始まった。1時間の制限時間で、ミニチュアの衛生陶器に規定の加工を施す。

加工は穴開けや埋め戻し、石膏型の継ぎ目を消すなど、多岐にわたる。その作業中に、指名された4名ずつが呼び出されてヨリ巻きに挑む。ヨリ巻きの制限時間は1分だから、やり直しているゆとりはない一発勝負だ。

しかし、選手にためらう様子はない。計測開始の合図とともに、両手を眼の高さでこすり合わせると、細長いひもがみるみる伸びていく。早い人はものの30秒で、規定の50センチに達するひもをより上げた。

制限時間1分の「ヨリ巻き」競技。4人並んで手をこすり合わせていると、なんだか新興宗教の集会のよう。上手い人ほどスルスルとひもが伸び、30秒ほどで規定の長さに達する。

私との違いはどこにあるのか。もちろん、手のひらをこすり合わせる技術も繊細なのだろうが、それ以前に、粘土の状態を見極め、あらかじめ最高の状態に調整しておくことが重要なのではないか。

というのも競技開始前、選手たちは与えられた粘土を入念にこねたり、水を加えたり、逆に放置したり、ぬれ布巾を被せて寝かせたり、さまざまなことをしていたのだ。

私はそれを、選手それぞれの好みだと思って見ていたのだが、どうも違う。直径10ミリの均一なひもを作るため、含水量を調整していたのだろう。

ミニチュアの加工にしても、作業を途中でやめて放置している選手が何人もいた。これはあとから思えば、加工に適した含水量になるまで乾かしていたのだ。水分過多で加工をすれば、型崩れを起こしてしまう。逆に乾きすぎると、加工そのものができない。

どちらの課題も、粘土の状態を見極める眼力が問われている、というわけである。衛生陶器は「やきもの」なのだと、改めて認識させられた。

>> 激戦を制したのは? 次ページに続く

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