取材・文/藤田麻希

自然をこよなく愛し、日本の山河とそのなかで生活を営む人々を描き続けた日本画家・川合玉堂(かわい・ぎょくどう、1873~1957)。その作品を見ると、一度もその場に行ったことがないはずなのに、なぜか懐かしい気持ちにさせられます。

川合玉堂 《早乙女》 1945(昭和20)年 絹本・彩色 山種美術館

玉堂は1873年に愛知県に生まれ、岐阜県で育ちました。14歳で京都の望月玉泉に入門、17歳で第三回内国勧業博覧会に入選し、華々しく画壇にデビューしました。

その後、円山四条派に連なる幸野楳嶺に師事し、1895年の第四回内国勧業博覧会に「鵜飼」を発表して三等銅牌を受賞。しかし、同じ博覧会で、新しい日本画を目指した橋本雅邦の作品を見て衝撃を受け、翌年には東京に移り、雅邦のもとで狩野派の画法を学びます。一般的に画家は一人の師につくものですが、玉堂は三人の師匠のもとで研鑽をつみました。

現状に満足することなく、高みを目指して果敢に挑戦していった情熱が伝わってきます。

川合玉堂 《鵜飼》 1895(明治28)年 絹本・彩色 山種美術館

そんな玉堂の画風は、円山四条派と狩野派の2つの流派で習得した伝統的な筆線をあやつりながら、西洋画や琳派も取り入れた、従来の山水画とは一線を画したものでした。

そしてまた、玉堂は各地に赴いて写生した経験を活かしながら、実感のこもった日本の風景と日本人の生活を描き、日本画ならではの風景表現を模索しました。これは伝統的な日本の山水画が、中国絵画を手本にしつつ、日本には存在しない理想化された景色を中国風の人物とともに描いてきたのとは異なるものでした。

川合玉堂 《彩雨》 1940(昭和15)年 絹本・彩色 東京国立近代美術館 [後期:11/28-12/24展示]

そんな川合玉堂の没後60年の節目を記念した「川合玉堂-四季・人々・自然-」が、東京の山種美術館で開かれています(~12月24日まで)。

山種美術館には、創立者の山﨑種二が直接交流しながら収集した、71点にもおよぶ玉堂作品のコレクションがあります。4年前の2013年にも玉堂に関する展覧会を開催しているため、それをご覧になった方も多いかと思いますが、今回の展覧会は改めて足を運んでいただきたい展示内容になっています。

館長の山﨑妙子さんに、前回の玉堂展との違いと、今回の見どころを伺いました。

「2013年の玉堂展は、絵画だけでなく、書や陶器の絵付けなどの合作を含む、当館所蔵の71点の玉堂作品をすべて展示しました。作品の状態が悪くて開館以来展示できなかった作品も、展覧会のために修復して公開しました。

一方、今回の展覧会は、初期から晩年にいたる代表作を、他所蔵作品も含めて一堂に集めて展示するものです。また家族や親しい画家、歌人とのエピソードも交え、素顔の玉堂の魅力も紹介します。

展示作品全85点のうち、当館所蔵作品からは選りすぐりの56点を展示しています」

山種美術館以外の所蔵品も含めた85点の作品で、初期から晩年までの玉堂の足跡をまんべんなく辿ることができます。不思議に懐かしい癒しの風景画の数々を愛でに、ぜひお出かけください。

川合玉堂 《屋根草を刈る》 1954(昭和29)年 紙本・彩色 東京都

【展覧会情報】
『特別展 没後60年記念 川合玉堂―四季・人々・自然―』
■会期/開催中~2017年12月24日(日)
■会場:山種美術館
■住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
■電話番号/03-5777-8600(ハローダイヤル)
■料金/一般1200(1000)円 大高生900(800)円 ※( )内は20名以上の団体料金 ※中学生以下無料、障がい者手帳・被爆者健康手帳所持者と介助者1名は無料、会期中きものでの来館者は団体割引料金
■開館時間/10時~17時(入館は16時30分まで)
■休館日/月曜

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

※記事中の画像写真の無断転載を禁じます。

 

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