文/矢島裕紀彦

国産のウイスキーが出来上がっても、すぐに舶来ものと肩を並べられるわけではない。嗜好の問題やブランドへのこだわりもあるから、特定の外国銘柄を愛飲する日本人も多かった。

有名なのが吉田茂。外交官として英国に長く滞在していたこともある吉田は、もっぱらオールドパーを飲んでいた。

あるとき、佐藤栄作の紹介を得て、田中角栄が初めて大磯の吉田茂邸を訪問した。吉田はすでに政治の表舞台から身をひいていたが、以前として強い影響力を誇る。吉田邸訪問は、保守本流の中央を歩いていくための、ひとつの関門であったのだろう。

角栄はこの日、手土産に良寛の書を持参した。吉田は上機嫌で、角栄にオールドパーをふるまったという。この話を後日、角栄から聞かされた佐藤栄作は、ひとこと言った。

「そうか、それなら間違いない。気に入られたんだ」

田中角栄はそれから、生涯、オールドパーを愛飲した。

関税や為替レートの関係もあり、まだまだ舶来のウイスキーが国産ものよりずっと高価な時代の話である。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。著書に『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。現在「漱石と明治人のことば」を当サイトにて連載中。

※本記事は「まいにちサライ」2014年11月8日配信分を転載したものです。

【お知らせ】
『サライ』2017年12月号は「ウイスキー」の大特集です。「そもウイスキーとは」のおさらいはもちろん、全国の蒸溜所を巡る旅企画、日本屈指のバーテンダーによる「家飲みの極意」伝授も見逃せません。

※くわしくは上の表紙画像をクリック!

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2024年
4月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店