吉田茂から田中角栄に引き継がれたオールドパー【ウイスキーよもやま話10】

文/矢島裕紀彦

国産のウイスキーが出来上がっても、すぐに舶来ものと肩を並べられるわけではない。嗜好の問題やブランドへのこだわりもあるから、特定の外国銘柄を愛飲する日本人も多かった。

有名なのが吉田茂。外交官として英国に長く滞在していたこともある吉田は、もっぱらオールドパーを飲んでいた。

あるとき、佐藤栄作の紹介を得て、田中角栄が初めて大磯の吉田茂邸を訪問した。吉田はすでに政治の表舞台から身をひいていたが、以前として強い影響力を誇る。吉田邸訪問は、保守本流の中央を歩いていくための、ひとつの関門であったのだろう。

角栄はこの日、手土産に良寛の書を持参した。吉田は上機嫌で、角栄にオールドパーをふるまったという。この話を後日、角栄から聞かされた佐藤栄作は、ひとこと言った。

「そうか、それなら間違いない。気に入られたんだ」

田中角栄はそれから、生涯、オールドパーを愛飲した。

関税や為替レートの関係もあり、まだまだ舶来のウイスキーが国産ものよりずっと高価な時代の話である。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。著書に『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。現在「漱石と明治人のことば」を当サイトにて連載中。

※本記事は「まいにちサライ」2014年11月8日配信分を転載したものです。

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